「やれ」
偽ドルブレイブは端的な命令に返答もなく応じる。一瞬で肉薄した大鎌を辛うじてブーメランで受け止めたダイダイック。得物が違う事を差し引いても、これまで処理した偽物たちとは明らかな性能の違いを感じ取った。
「…コイツ、強い!?」
「初期改修型だ、これまでの雑兵とはわけが違うぞ?加えて全てのSBシリーズはリンクしておる。お前に倒された時の情報も、そいつの頭には入っておるわけだ」
「そうか、どうりで…くそっ」
何合か武器を交わしたが、どうにも先読みされているような嫌な感覚は、ダイダイックの気のせいではなかったようだ。万全のコンディション、普段の魔装であれば何とかなったかもしれないが、特に体の不調が戦闘に響く。桁違いのパワーに押され、ブーメランがその手から弾き飛ばされた。とどめを刺さんと偽ドルブレイブは大鎌を振り上げる。
「ダメだよ!ハクギン!!」
ハクトの言葉もむなしく、ハクギンの大鎌は振り降ろされ、小さなドワーフの体は吹き飛んで、大木に激突した。
「ああ…そんな…」
「さぁ愛しいサンプルよ!邪魔者は消えた。急いでまいろう!なぁに、すぐに終わるとも」
ハクトに近づいた偽ドルブレイブは、額にトンと当てた指先から麻酔を打ち込みハクトを昏倒させると、その身体を担ぎ上げ、そのまま老人とともに吹雪の中に消えていくのだった。
「こっちだ!!」
ティードは自前の、セ~クスィ~は私用に持ち歩いているプリズムを用いて、カラーリングの異なるドルブレイドを並走しハクギンの故郷の跡へと駆け付けた。巨木の下、衝撃で舞い落ちた雪の塊の中から、ダイダイックを救出する。
「しっかりしろ!ダイダイック!」
「ぅ…うむ…すまない、アカック、ハクト君が攫われた」
「わかっている。まずは手当てだ」
スーツの切れ目から覗く傷痕は、既に凍傷になり始めている。それに極度に体力を消耗した様子。この状態では回復呪文による急激な回復は逆に命取りになりかねない。テキパキと邪魔になる部分のスーツをはがしつつ、包帯やドルブレイブに支給されている応急ツールを用い、傷を覆っていく。
「…アカック。やり取りは全て聞いていたね?」
アラモンド鉱山内の秘密基地で身にまとって以降、ネコギシはスーツの通信端末をオンにしていた。旧式ゆえプクランドからは届かないまでも、オーグリード大陸内であれば通信は届いていたはず。
「ああ、聞いた」
この場にいるティードが、息子を攫われていながらも何とか落ち着いているのも、先までのやり取りをセ~クスィ~の端末越しに共有していたからだ。
「その上で聞くけど。あの少年を…ハクギンを助けるつもり?」
「もちろんだ。ハクト君もハクギンも、必ず助けてみせる」
ネコギシの予想通り、リーダーの強い言葉が返ってくる。
「そうか」
「反対はしないのだな」
「しないしない、むしろ逆だよ。助けてあげてくれ。最後の時、ハクト君の呼びかけに、確かにハクギンは反応していたんだ。正確無比なその手元がわずかにそれた。だから俺はまだ生きてる」
「そうか。そうだろうな。彼は優しい子だ」
さすがにズタボロにされた身。優しい子、というのはいささかネコギシには同情しかねる。
「連れて戻ったら、恨み節の一つも言わせてもらうけどな」
「ハクギンをいじめることは許さんぞ。そんなことしたらまた腹筋だからな」
「ひぃ、冗談だよ。さ、俺はもう大丈夫。これを持っていくといい。ちょうど二つある」
ダイダイックは着陸の際こっそりと外して隠しておいた旧式のベルトをセ~クスィ~に託す。偶然にも、最初に激突した巨木と、偽ドルブレイブにより吹っ飛ばされてぶつかった巨木も同じものだったのだ。
「有り難い。これで百人、いや、二百人力だ」
「それと、通信端末の周波数を…うん、これだ」
ダイダイックは自身の腕に巻いていた通信端末を少し操作した後、セ~クスィ~に託す。
「戦いの最中、ハクギンに発信器を付けた。これで居場所を追えるはずだ。あとは任せたよ。ここでお帰りを待ってる」
最後の力でそう告げると、意識を失うダイダイック。セ~クスィ~はおきょう博士謹製の応急ツールの中から、ワンボタンで展開できる風防を展開し、ダイダイックを吹雪から守るよう手早く設置した。呼吸が穏やかな事を確認し、セ~クスィ~はぎゅっと強く拳を握りしめる。
「すまない、ティード。待たせてしまった」
「大丈夫。私もいっぱしの冒険者よ。焦ってもどうにもならない事はわかっているし、優先順位も心得てるわ。だからこそ」
「ああ、ここからは」
「「全力で飛ばしていくぞ」」
ダイダイックから預かったベルトを腰に巻く。ティードも見よう見まねで装着すると、発信器の示す光源へ向け、再びドルブレイドを走らせるのだった。
続く