暗闇の中、アカックブレイブの言葉がハクギンの耳をうつ。
「負けるな!挫けるな!!」
悔やんでも、過去は消えない。償いきれる罪でもない。それでも。
「君の中にも、熱きものがあるはず!!」
ハクトを、友達を、助けたい。今のこの気持ちだけは、本心なんだ。
「さぁ、立ち上がれっ!!!」
母さん、父さん。もう一度。ボクは我儘を言います。
「うがああああああっ!!」
雄叫びとともに、SB-03の邪装展開が解除、いや、ガラスのように砕け散っていく。セ~クスィ~の呼びかけに、ハクギンはキリッと未来を見据えた。
「良い目だ。さぁ、今こそ、ともに変身するぞ!」
「「ドルセリン・チャージ!」」
セ~クスィ~にならい、肩口のアームからむしりとったシリンジの中身を、自分の意志で首のチョーカー越しに打ち込む。過去幾度となく繰り返された行動。だがしかし。
「「魔・装・展・開!!」」
セ~クスィ~と少年の声が重なる。セ~クスィ~を包むのはいつもの通りの赤い閃光。そしてその眼前では、漆黒の闇に代わり、純白の光が少年を包む。
「それが君の、勇気の形か!素晴らしい!!」
「………!?」
アカックブレイブと同じボディアーマー。しかし脚部は神兵の鎧を模した、より攻撃的なレッグガードに包まれ、両手も打撃力を強化するガントレットに覆われている。全体の色調は、その名を表すかのごとき白銀。誰よりもハクギン自身が、己の生まれ変わった姿に驚いていた。そんな背中をそっと押すように、アカックブレイブが並び立つ。
「馬鹿な!?そんな機能は設計しておらん!」
ハクギンの姿に驚きの声をあげる老人。
「知れた事!ハクギンの勇気に、ドルセリンが応えてくれたのだ!」
「さっぱり意味わからんわ!」
頭をかきむしる老人を無視し、セ~クスィ~とハクギンは手分けして、未だ囚われの身のハクトの拘束を解いていく。
「ハクト君、怪我はないか?」
「はい、大丈夫です」
答えるハクトの声はしかし、わずかに震えていた。
「セ~クスィ~さん、いや、アカックブレイブは、いつもあんな…」
声の震えを怪我によるものかと心配したアカックだが、ハクトの紡ぐ言葉から、その震えの真なる理由を察する。
「ハクト君。これは君の友セ~クスィ~としてではなく、マージン殿とティードの息子である君へ、アカックブレイブからの言葉だと思ってほしい。…このアストルティアには、まことに残念ながら、おぞましい悪というものが存在する。その闇の深さに比べれば、この私すら、簡単に揉み消されてしまう様な小さな光に過ぎない」
アカックブレイブはしっかりと肩に手を置き、ハクトの目を見つめながら続ける。
「だが、光は私だけではない。その小さな光は、マージン殿や、ティード、ハクギン、そして、君の中にもある。悪を憎むのではない。悪に対して、正しき怒りを持てる心が、君の中にも確かに息づいている」
「正しい怒り…」
「一つ一つは小さな光だ。だが、一人が二人に、二人が三人に、やがて五人も揃えば、恐れるものは何もない。君はそんな、大きな光の中にいる」
アカックの力強い言葉に、ハクトの瞳にも炎がともる。
「さあ、もう大丈夫なようだね」
「はい!」
ハクトも冒険者を目指す以上は、これは避けられない事だったかもしれない。だが願わくば、親友ティードの愛息子であるハクトには、アストルティアに巣食うおぞましい悪に、ついぞ触れることなく穏やかな日常を送ってほしかった。そんなセ~クスィ~としての想いは飲み込み、アカックブレイブはハクトの肩から手を離し立ち上がった。
「さぁ、共に戦うぞ!ハクト君!ハクギンブレイブ!」
そしてすっかり何か、いや、誰かを忘れているアカックブレイブであった。
続く