「さてご老人、まだやるか?」
拳に付着した機械油を払い、モニターに映る老人を睨み付ける。
「個人的には同僚の怪我の分、お返しをしたい所だが、なにぶん今日は大所帯でな。そろそろ帰らせてもらおうか」
手駒をすべて潰されたのだ。苦虫を噛み潰しているかと思いきや、にんまりと笑っている老人に違和感を覚えるアカックブレイブ。
「まぁまぁ、そうつれない事を言うな。雑兵が時間を稼いでくれたおかげで、ワシの目的は果たされた」
「何!?」
その時、バリンという大きな音とともに、壁際の大型水槽に亀裂が走り、赤い液体が噴出し始めた。
「一体何だこれは?」
朱い溶液で中がはっきり見えなかったこともあり、てっきり施設のオブジェか何かかと思い、アームライオンの安置された装置にノーマークだったアカックブレイブ。
「そうだ、母さん、皆、早く逃げなきゃ!あれは、あれは…」
ハクトの言葉が終わる前に、青くふとましい腕がガラスを突き破る。
「はぁっはっはぁ!!ついに!ついに完成したぞ!!」
老人の歓喜の言葉とともに、ガラスは完全に砕け散り、禍々しい巨躯がその全身を明らかにする。
「何よ、コイツ。こんなの見た事ない」
ティードの記憶でも、こんなモンスターは見当がつかなかった。
「アームライオン?いやしかし、何だこの肌の色?」
おおよその外観はアームライオンに酷似している。しかしアームライオンの黄色いはずの毛並はうっすらと青みがかり、その牙は不自然に巨大化して、ダラダラとよだれを垂らしていた。背中からは未発達ながらも、こうもりの様な羽根が生え出でて、時折体を浮かせようとはためく。そして何より、右上腕。アームライオンの4本の腕のうち一本だけが、鱗に覆われ、赤い爪を持つ異質なものとなっている。その腕から体の方へと、何やら細い触手の様な物が複数走り、体内で蠢いているのが浮き上がった皮膚から見て取れる。
「名付けてシドーレオ!邪神の力を受け継ぐ、最強のモンスターの誕生じゃ!」
ほんとうに軽く、といった感じで振るわれた右腕が壁を叩くと、打点を起点として硬質な壁が容易く砕け、部屋の四方へ亀裂が伝播する。立っていられないほどの揺れにアカックブレイブら4人はたまらず膝をつく。
「ふむ、さすがに大陸砕きと言われたほどの威力は出ぬか。どれ、外へ出る前に、まずは腹ごしらえじゃな」
破壊の伝播はもちろんモニターにもおよび、その言葉を最後にブツンと映像は途絶えた。目の前の4人に見向きもせず、シドーレオは壁に開けた大穴を通り、ズシンズシンと足音を響かせながら立ち去っていく。
「一体、どうしたのかしら?」
疑問を投げかけるティードに、ハクギンが慌てて応える。
「あっちはまずい!ハクト以外の攫われた子供たちが囚われている牢屋がある!!」
「何だと!?くっ、あの老人、やってくれる!」
続く