「………」
カーテンの隙間から急な角度で差し込む陽光が、とうに朝を過ぎ、昼が間近に近づいていることを告げる。未だ覚醒を拒む頭を持ち上げ、ハクトは気だるさに満ちた表情で壁のカレンダーに目を向けた。セ~クスィ~がハクトの家にやってきた数日間。思い返しても夢だったのではないかと思える濃厚な日々から、1ヶ月。
ハクトが友達を失ったあの日から、もう1ヶ月が経っていた。
シドーレオを倒し、満身創痍のハクト達のもとへ、3名のグレン兵が駆け付ける。救助した子供達を保護してくれた兵士とはまた、別の分隊。助けが来たと安堵するハクトと対称的に、彼らの姿を見るなりティードの表情が曇った。
「その少年を引き渡して貰おうか」
あろうことか、グレン兵は手にした槍をハクギンに向ける。
「ちょっと!!一体どういうつもりなんですか!?」
疲労で感覚の鈍っている身体でも、ハクトは憤りを力にグレン兵とハクギンの間に立ち塞がった。ハクトとて、ハクギンの過去は知っている。だがしかし、この扱いはあんまりだ。
「いいんだ、ハクト。君とちゃんと友達になる為に、僕にはまだ先にやらないといけないことがある」
出会った頃を思えば信じられない、穏やかながら、強い意志を宿した瞳でハクギンはハクトに告げる。ポンとハクトの肩に手を置いたセ~クスィ~もまた、縋るようなハクトの視線に、無言で目を閉じ、首を振った。過去の過ちを有耶無耶にしてしまうことを、何よりハクギンが望んでいない。それを分かるが故、セ~クスィ~にとっても断腸の思いだった。
「そんな…」
ハクトの落胆の眼差しを一身に引き受けつつ、セ~クスィ~はグレン兵の前に歩み出る。
「私は超駆動戦隊ドルブレイブ所属、セ~クスィ~。こちらに抵抗の意思はない。無粋なものは下げて頂けないか?それと加えて、特別な隔離措置を願いたい犯罪者がいる。今回の一連の事件の首謀者だ」
拘束した老人を後ろ手に引き連れ、せめて少しでも、ハクギンの待遇の改善を求める。
「あなた達に捕縛令の下りているこの少年の取り調べに関しては、私も同伴させて頂く。彼、ハクギンは、今や我がドルブレイブの一員だ」
「いいでしょう。ではまず、そちらの老人をこちらへ…」
それはほんの一瞬、セ~クスィ~の腕の力が緩んだ瞬間だった。
「まだじゃ!まだ、こんなところで、ワシの研究は、潰えやせぬ!」
最後の悪あがき。老人は両腕を縛られたまま、セ~クスィ~や、とっさに捕まえようとしたグレン兵を押しのけ、シドーレオの残骸へと駆け寄ろうとし、道半ばで雪に転げる。
「この、いい加減に…」
度重なる戦闘の疲労と、心に秘めつつも、ハクトと同じく胸に満ちたやるせない気持ちから、言葉に怒気がこもるセ~クスィ~。未だ尻もちをつき、立ち上がれないでいたセ~クスィ~を、同じく倒れた姿勢のまま薄ら笑いを浮かべて、睨めつける老人。
「あれは!?まさか、そんな…いけない!早くアイツを止めて!!」
ハクトが慌てて叫ぶ。老人の口もとに、見覚えのある赤い液体を満たしたアンプルが咥えられていた。老人は雪に足をとられて転んだのではない。縛られた状態では腕は使えない。その状況下で、懐からアレを取り出す為に、わざと転倒したのだ。
「えっ、一体何?」
ティードもセ~クスィ~も、シドーアームを定着させる為の融合剤の存在を知らない。
「もう遅いわぃ」
バリンとガラス管をかみ砕き、その欠片ごと薬液を飲み込む。シドーレオの残骸と未だ距離があると見えていたが、その肉片が老人の倒れた辺りにまで散って来ていたのだ。
一つ、二つ、細かな肉片を取り込むごとに、磁石に金属が吸い寄せられるが如く、シドーレオの残骸が老人のもとへとウゾウゾと這いより、融合していく。
続く