「さぁ、そろそろだぞ」
謝ろうとしたハクトを遮る様に、セ~クスィ~はハクトにステージを見るように促す。
「えっ…」
ぽとりとハクトのポップコーンカップが地に落ちる。目線の先、舞台の中央。奈落からせりあがってきたのは、ハクギンブレイブの雄姿だった。
「先に言っておくが、あれは…ハクギンではない。正確には、だったものというべきか」
苦虫を噛み潰したような表情を浮かべるセ~クスィ~。
「あの後、老人の地下研究所を調べた時に発見したのだ。たけやりへいの自爆システムの本質は、エネルギーの放出による攻撃で、外殻は残る。発見した際、既に自立稼働するまでに修復が完了していたが、しかし…もうあの機械の体の中に、ハクギンの意志は無かった」
セ~クスィ~もまた、地下施設の残骸の中に立つハクギンブレイブを発見した時、淡い期待を抱いたが、残念ながらそこまでの奇跡は起きなかったのだ。
「我々ドルブレイブのブレイン、おきょう博士曰く、たけやりへいと比較した際、どうしても構造のわからない小さな箱があり、その中身が空っぽになっているらしい。おそらく、そこがハクギンの魂を閉じ込めていた機構だったのだろう」
舞台の上のハクギンブレイブは、終始ぎこちない動きで、観客の立場から見ても明らかに台本と取り違えた演技をしてしまう所も有りながら、相手役のモンスターの着ぐるみに身を包む劇団員や、他のスタッフにフォローされながら、なんとか演目を演じきった。
「舞台の上の彼は記憶もなく、外観を除けばただのたけやりへいだ。だがしかし、研究所から外へと連れ出した後、彼はまるで長らく寄り添った仲間モンスターの様に、私の言葉を理解し、草花や動物を愛でた。それは単純に、指令を出す老人がいないからなのかもしれない。それでも私は、ハクギンブレイブの忘れ形見を、信じようと思った」
スマートではない。しかし、泥臭くも温かい演技は、観客の心を打った。周りにならい、ハクト達3人も、スタンディングオベーションで惜しみない拍手を送る。
「ヒーローになりたい、というのは彼自身の言葉だ。しかし、修復されたとはいえ、もはや戦える体ではないし、あの姿を戦場に連れ出せるほど、私の心は強くない。幸い、旧知の座長が引き受けてくれることになり、今日が初舞台だったという訳だ」
放っておけば永遠に続くのではないかと思われた熱い拍手の渦は、司会者からの握手会の案内で惜しまれつつも止んでいく。ハクトもまた席に着き、礼儀正しく起立の姿勢で次の仕事に備えるハクギンブレイブの姿を見守った。劇団員たちがテキパキと慣れた様子で子供たちの列を整理する。ふと、その先頭に立つ少年の姿が目に留まった。
続く