※この日誌は蒼天のソウラ二次創作『幻列車の浪漫』と同時期、別の場所で起こっていた出来事を描いたお話になります。
マージンさんの息子ハクト君、プクリポの少年ごましお君の紹介は、私の過去作でも多用させて頂いておりますので割愛しております。
直接的なつながりは薄いですが、合わせてお楽しみいただければ幸いです。
なお、作中のライティアさんの設定は、他の方々と同様、ソウラ本編・日誌・ツイッター等々のミキシングではありますが、ソウラ出演時よりもご本人様のツイッターの内容に寄せさせて頂いております。
『虎酒家繁盛記』
一角ウサギの角を持ち帰る。ただそれだけの簡単なクエストのはずだった。
ハクトの父マージンや、ごましおの友人兼保護者枠でウェディのミサークら、初の大人の手を借りないハクトとごましおだけでのクエスト挑戦。
しかし、本来この場には居ないはずのキラーマシンに遭遇してしまい状況が一変した。
ガシャガシャと不快な音を立てる機械人形からごましおを抱えて必死に逃げる。
幸い村の近くだが、それでも逃げ切れるかは微妙な所だ。
背筋に冷たい気配を感じて横に飛んだ瞬間、さっきまで走っていたあたりを矢が通り抜ける。
ハクトお手製、本家にもお墨付きを頂いた擬似ドルブレイブスーツを着装しようにも両手は塞がっている。
後ろは怖くて振り向けない。しかし、確実に機械音は近づいている気がする。
(助けて!父さん!!)
ハクトの足が恐怖に止まってしまいそうになったその時。
一陣の黄色い風、いや、武闘家が駆け抜けた。
強風が吹いているのかと錯覚する程、深く区切りの長い呼吸音。
ハクトとごましおの足元を黄色い影がポニーテールをたなびかせすり抜ける。
影はキラーパンサーとも見紛う獣のような動きでキラーマシンへ肉迫、性格無比な動きをする殺人機械はカメラアイで捉えられないものの、センサーで接近する敵を感知し、水平に剣を構えて上半身を高速回転させた。
この先自分を襲う惨劇を予感し、ずっと顔を手で覆っているごましおに対し、闘いの推移を見逃すまいと必死に黄色い残像を追ったハクトは驚きの光景を目にした。
コマの如く高速回転するキラーマシンの上半身と突き出された刃、その軌跡の遥か下。
どうしてそんな動きができたのだろう。
ここへ来て、ハッキリとハクトは理解した。
黄色い影は手を着くわけでもなく、身体を今にも擦りそうな低さまで倒し、大地と平行な姿勢で疾走していたのだ。
「あ~ダメダメ、それじゃ私には当たらないよっ」
獲物を前に動きを止めてなお、驚異的な筋力で低姿勢を維持したままの女性の頭上をキラーマシンの刃は空振り続けている。
「ほんっと、芸がないね。冥土の土産に武術ってものを見せてあげる」
女性の手には衣装と同じく黄色に染められたネコ科の魔物を模した爪が装備されている。姿勢もさることながら、鋭い目線と飄々とした口調も相俟って、虎の如きその装備は彼女にとてもピッタリだとハクトは感じた。
「始原猛虎爪(プリミティブタイガークロー)!!」
キラーマシンを遥かに上回る大きさの白刃を幾重にも描きながら、キラーマシンを押し込んで行く。
やがてもとより10メートルは離れたあたり、崖にぶつかり動きを止めた。
強固だったハズの青い装甲はまるで紙切れのようにズタズタに引き裂かれ、手足は散り散りに散らばって、当然ながらモノアイも光を失っている。
「…す、すごい」
「ハクトくん…オレら死んだ?」
呆気にとられるハクトに対し、未だ顔面に小さな手がめり込むほどに押し当てて現実逃避しているごましおがそっと尋ねる。
「大丈夫だよ、眼を開けてごらん」
ハクトは優しく答え、ごましおを地面におろす。
「う~ん、私の技、全然まだまだだなぁ。完成度65%って所かな。しかし、こいつはさすがに食べられないかな…」
何やらごそごそとキラーマシンの残骸を物色する命の恩人の後ろ姿に、勇気を出して話しかけるハクト。
「あ、あの!!」
「にゃ?」
キラーマシンの二の腕にスペアリブよろしく齧り付いた姿勢のまま、ハクトの方を振り返る女性冒険者。
「助けていただいてありがとうございます!!不躾ですがっ、短い間で構いません、僕に稽古をつけてもらえませんか!?」
続く