セ~クスィ~やハクギンと過ごした日々の後。
ハクトは冒険者としての自らの戦闘スタイルに思い悩んでいた。
父マージンと母ティードとも異なる自分なりの答えを見つけるため、できることは何でもしようと思ったのだ。
「いいよ!」
「そこをなんとか…へっ、い、いいんですか!?」
まずは断られるものと思っていたハクトを尻目に、立ち上がりパンパンと膝を払うと、ハクトとごましおに歩み寄り、じっと見つめる女性。
「私、ちょうど事情あって暫くこの辺から離れられないから。その間だけでいいなら」
「ありがとうございます!!」
「あ、ありがとう、ございます?」
元気よく答えるハクトと、事情が飲めないながらも流されるごましお。
「よしよし。いい返事だね!私はライティア。君たちは?」
「ハクトと言います」
「ごましおです、よろしく」
あらためてみるライティアの装束は、爪を振るう武闘家らしく、胴回りや肩、足の付け根が大胆に露出した、動きを妨げない設計になっている。
どこか動物の毛並を思わせる布地、全体的に黄色をベースとした色調もまた、虎っぽさを全力で主張する。
「よ~し、私が君たちを一人前のトラにしてしんぜようではないか!」
「あ、いや、トラにはなりたくないです」
「えっ!?どうして!?かっこいいのに!」
がしっとハクトの肩を掴み揺さぶるライティア。
思い切った自分は褒めてあげたい。だがしかし、頼る相手を間違えたかもしれない。
自らの判断に思い悩むハクトであった。
かっこいいのに~、トラ~、とブツブツと弟子を虎にする夢を諦めないライティア師匠を先頭に草原をあとにし、村を歩く。
やがてある建物の前で、ライティアは歩みを止めた。
「よし、今日からここが、一人前のトラをめざす君達の修行の場、『虎ノ門』だ!」
バァンと朱色の扉を開き叫ぶライティア。
途端にファジャオや豆板醤、その他多数の、刺激の中にも濃厚な旨みを感じさせるスパイスの魅惑的な香りがハクトとごましおを包み込む。
「何言ってんだい!!今も昔もこれからも、小料理屋『虎酒家』だよ!ほら、4番テーブルから注文だ、さっさと餃子焼きな!」
テーブルに空きの全くない盛況な店内。
奥の厨房から割腹のいい女店主の声とともに黒色の何かがブーメランの如く飛来する。
「はい!!喜んで!!!」
飛来したおたまがライティアの側頭部に直撃した。
ライティアの頭で跳ね返ったおたまを見事にキャッチしつつ、威勢よく返事したライティア師匠に先行きの不安を感じるハクトであった。
続く