「ご覧あれ、俺っち渾身の一隻!名付けて!アルティメット・スワン・フォワードウィング・ブースター・カスタム…」
「はいはい、スワンカスタムね」
放っておくといつまでも続きそうなネーミングをフツキがバッサリと切り捨てる。
ちなみにロマンがスワンちゃんの改造に勤しんでいる間、マージンと二人してアズランの理髪店に入り浸り、店主に無理を言って以前の髪型と寸分たがわぬウィッグを用意してもらい、フツキの風に流れるサラサラの髪は仮初の復活を果たしている。
「スワンカスタム…」
自他ともに認める、表情の乏しい我が身であるが、それでも今きっと引き攣った笑みを浮かべている事だろうとセイロンは自覚する。
白鳥を象った穏やかな姿だったはずのスワンボートは、巨大なブーメランが突き立っているかの様な直線的な翼を取り付けられ、左右それぞれ、翼の下に大きな手筒花火の様な物を懸下している。
優雅にもたげていた首には可動軸が設けられ、ピンとまっすぐ矢の如く正面を刺し貫いていた。
「ぽちっとな」
呆気にとられるセイロンをさておき、ロマンが手に持ったスイッチを押しこむと、翼の下に取り付けられた大筒から火柱が噴き出す。
シュゴーッという現実離れした音が、より一層セイロンの眩暈を助長した。
「まあ、良しとしましょう…」
乗るのは自分ではないうえ、この旅は命の危険を伴う。
少しぐらい、乗り手の好きにさせても罰は当たらないだろう。
それよりもセイロンが気になるのは、縛られている人物である。
「もが、もが~っ!」
ベールの下で蠢き、声にならない叫びをあげていたのはマージンであった。
「とても嫌がっているようですが?何と説明したんです?」
「幽霊電車に乗り込むために、ちょっと一回死んでもらうって言ったらあの調子で」
「…はぁ」
「馬鹿が死んで治るのか、良い実験になる」
あらためてマージンの耳元でさえずり、恐怖をあおるフツキは、とても良い笑顔をしていた。
実際、セイロンの術を用いて仮死状態にするだけであって、本当に死ぬという訳ではない。
あえてその部分を伏せて伝えたな、とセイロンは察知した。
続く