「またこの季節がやってきたわね…」
超駆動戦隊ドルブレイブのブレイン、おきょう博士は、そのプクリポの小さい体の、ゆうに3倍はあろうかという大きい椅子に深々と腰掛け、眉をしかめた。
「またか。またしても、私の前に立ち塞がるかっ!」ドルブレイブ秘密基地本部。
おきょう博士の私室の前には、職員の皆様へのお知らせ掲示板が存在する。
そこに貼られた1枚のチラシ。
何の変哲もない紙切れに、悪を許さぬ毅然とした眼差しを向け、壁ドン姿勢で睨めつけるオーガが一人。
「毎年毎年、性懲りも無くやってくるとは、本当に本当にご苦労な事だ」
超駆動戦隊ドルブレイブリーダー、アカックブレイブこと、セ~クスィ~。
彼女は吐き捨てる様に呟くと、別れの挨拶とばかりに、ひときわ鋭い視線を紙切れに送ったのち、掲示板にくっきりと手形を残して立ち去った。
彼女が憤怒と畏怖の念を込めながら見つめていた1枚のチラシには、『メラゾ熱ワクチン接種のお知らせ』と書かれていた。
月日は巡り、遂に決戦の日は訪れる。
「ドルセリン、チャージ!魔装展開!!」
ドルブレイブ秘密基地内、最新鋭の医療機器が所狭しと並ぶ医務室内に、高らかな声が響き渡った。
「何者も恐れぬ勇気の戦士!アカックブレイブ!!」
「はい、セ~クスィ~さ~ん。まずは魔装解きましょうか~?」
魔装を展開し、口を真一文字に結んで丸椅子にちょこんと腰掛けるアカックに、無慈悲なおきょう博士の声がかけられる。
「いや、魔装は既に私の一部であってからして…」
「いやいや、魔装の上から針刺さりませんからね?」
「そこを何とか…」
「なりません」
注射器を携えたまま、おきょう博士とアカックブレイブの睨み合いが続く。
ただし、アカックブレイブはそっぽを向いてはいるのだが。
「…仕方ありません。あの手でいきますか」
膠着状態が小一時間は続いた頃、半ば呆れ気味におきょう博士がテーブルのスイッチを操作すると、アカックの前面に位置するモニターに、小児病棟へ慰問を行った際の映像が映し出される。
それは作戦の都合上、アカックブレイブが参加出来なかった日の出来事。
ドルブレイブのメンバー一人一人が、名乗りをあげてこの日の為の特注魔装を展開していく。
「守ろう伝統!エルトナ伝来の高級食!スシックブレイブ!」
青空のような澄んだ青のボディアーマーに、頭部のマグロの握りの赤が栄える。
「漢は黙って一本釣り。カジキマグロ2号!」
見返りの姿勢で、背中に背負ったカジキマグロを見せつける2号。
カジキマグロの大きさは、2号の背丈を遥か上回っている。
カジキマグロのつぶらな瞳がアカックブレイブの視線と交差した。
「見た目を恐れないで!大海原の滋味!イカスミブレイブ!」
スイムスーツの様な黒い魔装に、タイヤ浮き輪型魔装具。
黒ずくめの頭の上には、湯気を立てるイカ墨パスタが鎮座する。
ご丁寧にパスタを巻き上げたフォークは、上下にスイングしていた。
「ちくわなのかお麩なのか。はたしてどちらでもないアンビバレンスな魅力!ちくわぶブレイブ!…そしてちょっぴり何だか卑猥」
ダイダイックブレイブの頭上には、彼の腕と同じくらいの太さで再現されたちくわぶがダイナミックに鎮座し、彼の動きにあわせてブルブルと痙攣する。
「「「「美味しさの伝道師!超食育戦隊ドルブレイブ!!!」」」」
さすがに病院内なので爆発は起こらないが、あんまりな同僚達の名乗り姿を前にして、代わりにアカックブレイブの腹筋が爆砕した。
「ぷっ!ひぃ、あははっ!あははははっ!!ち、ちくわぶ…あははははっ!」
「はい、終わりましたよセ~クスィ~さん」
あまりに限度を超えた爆笑によって魔装展開が解除された瞬間を逃さず、ブスリとワクチン接種を終えるおきょう博士。
「…ご面倒をお掛けしました」
刺し痕に添えられた可愛らしい花柄の絆創膏を擦りながら、しょんぼりと医務室をあとにするセ~クスィ~。
おきょう博士はすっかりうなだれた姿勢で歩くセ~クスィ~をヒラヒラと手を振り見送ると、テーブルに向き直る。
「暫くはこの手でいけそうね」
慰問の様子を保存しておいてよかった。
映像データをあらためてバックアップし、消えないようにロック設定をかける。
「できればこれも、着て欲しかったわねぇ」
そして使われる事の無かったアカックブレイブ用食育魔装、辛子明太子ブレイブスーツのデータもまた、そっとしまい込まれたのだった。
~Fin~