「マージン!最後の手段を使う!!しっかり掴まってろよ!」
「大棟梁、何のこと!?」
相対速度的に、もはやスワンカスタムが幽霊列車に追いつくのは絶望的。
マージンの問いかけには応えず、ロマンは仕込みこそしたものの、正直使用する気の無かった禁断の兵装のスイッチに手を伸ばす。
「大空を貫けっ!アルティメット・スワン・クリティカル・アロー!!!」
高く振り上げたこぶしを、操縦桿中央の赤い大きな丸ボタンに叩き付ける。
バシュウッ
船首から響く射出音。
「くっ、首がっ!スワンちゃんの首がっ!!」
「そして俺の首も絞まってるぅ!!」
スワンカスタムの頭部が火炎を噴射し分離、ブースト状態のドルボードも斯くやという勢いで幽霊列車を猛追する。
やがて爆音とともに幽霊列車後部車両の扉を派手に撃ち貫いた。
「良し捕えた!すかさずブースター、オン!!」
スワンカスタムの頭部はただ飛んだだけではない。本体と首は太いチェーンで結ばれ、繋がっている。
それを巻き取る事による牽引に加え、両翼に懸架したジェットエンジンが激しく火を噴き、風圧で口がわななく位の勢いでスワンカスタムは幽霊列車に向け突進する。
「おおおお~っ、こりゃ凄いけどっ!ぶつかる!ぶつかるって!!大棟梁、ブレーキブレーキ!!」
マージンは振り落とされないよう帽子とテルルを必死に抑えながら、ぐんぐんと近づく幽霊列車に恐怖を覚える。
「マージン!若さってなんだ!?」
「はっ!?」
「ふりむかないことさっ!当然ブレーキなんて後ろ向きなモンは、無いっ!!」
「「「ウソでしょっ!?」」」
ロマン以外が奏でる悲鳴の三重奏とともに、スワンカスタムは幽霊列車に爆着した。
「よしっ!はっ…コホン」
スワンカスタムが列車に激突した瞬間、思わず小さくガッツポーズをとってしまい、恥じらうセイロン。
「第一段階はクリア。さて」
セイロンはしゃがみ込むと、荷物バッグから蓄音機のような古めかしい機械を取り出す。
どすんと地に置かれたそれは、デスマスターが霊界との通信に用いる交信機、その携行タイプだ。
以前として持ち運びにはやや不便な大きさであることには変わりはないが、据え置き型のタイプに比べて半分ほどの大きさまでの小型化に成功している。
しかし、対象との距離の制約など、依然として改善の余地を多く残していた。
「あ~、あ~、突入部隊、聞こえますか?どうぞ?」
「何ぞこれ!何ぞこれ!!脳に直接セイロンちゃんの声が響いてくるんだけど!?」
「その声は、マージン様ですね」
「イエスマム!無事じゃないけど何とか列車に乗り込んだとこ。ただ、大棟梁とテルルちゃんとはぐれちまった」
「はい、衝突の瞬間、衝撃で飛ばされるテルル様と、それを庇ってしがみ付いたロマン様を見ました。ですがご安心ください。お二人は3両ほど前の車両の屋根を抜け、乗車されています」
「そうか、それはよかった」
「距離の問題で、間もなく私の声は届かなくなります。あとは手筈通り、先頭車両を目指してください」
「早く合流しないといけないしな」
「ええ。ですが…」
すっと瞳を閉じ、感覚を研ぎ澄ますセイロン。
背筋にピリリとした悪寒を感じ取る。
「やはり…」
セイロンが一瞬マージンの魂を通して感じ取ったのは、幽霊列車内のモンスターの気配。
「正体はわかりませんが、かなり強力な死霊の存在を感知しました。いずれ助っ人を送ります。くれぐれも無理をなさらぬよう」
「助っ人?まあ、爆弾工作員(ボムスペシャリスト)の手にかかりゃあ、必要ないと思うけどな」
「念のためです。あと最後に。くれぐれも………」
「えっ?何だって?」
深い眠りには落ちぬよう、ご注意ください。
セイロンの警告は、通信距離限界に阻まれ、マージンの脳に届くことは無かった。
続く