夢を見ている。
それは、過去の記憶。
ロマンがまだ若く、修行の為、のちの師となる人物を訪ねた時のこと。
その男は自らの建築物の評価のみで全てのキーエンブレムを授与され、神と崇め奉られるほどの匠であった。
しかし、後継に恵まれず、また、志を持たぬ大工ばかりが跳梁跋扈する今の建築業界にを嘆き、晩年、ラッカランで呑んだくれる底辺の日々を送っていた。
「今の大工はどいつもこいつも大工じゃない。ただの組み立て屋だ」
コロシアムの酒場でハズレくじ券を握り締めては、あたり構わず、くだを巻いていた。
しかしそんな男こそが、自分の夢を叶えるために必要なのだと、何度酒をぶっかけられてもロマンはめげずに男の元に通い続けた。
そして始まった修行の日々。
手始めに、自生するどくけし草とめざめの花を用意させられ、怪しげなバングルを付けてひたすらモンスターと戦わさせられ、三種類の月光の花を集めさせられたあたりで、流石のロマンもイライラがトサカにきた。
適当に無理難題を押し付け、諦めさせようとしていた師と、一昼夜本気で殴り合ったロマン。
精魂付き果て、互いに大の字に倒れ伏した時、師は初めて真剣な口調でロマンに問いかけた。
「…お前、何で大工になりてぇんだ?」
「俺は…」
あの日、あの時、あの満天の星空の下。
初めて他人に打ち明けた己の夢。
それは今でも、ロマンの心の根っこを、どっしりと支えている。
「大棟梁!早く、起きなさ~い!!」
「…あ~クソッ、最悪な夢だったぜ」
夢の中にも遠くから響いてきたテルルの大声が、ロマンの意識を引き戻す。
久方ぶりに思い出した師のしわくちゃな顔を、ぶんぶんと頭を揺すって振り払った。
「どんな状況だ、一体?」
見渡すかぎり草原が拡がっているが、頭上を見上げると、恐らくロマンが突き破った為出来たであろう大きな穴が空にあいている。
穴からのぞくのは周りの青空に反した、漆黒の夜空。
「…一応、電車の中なのか?まったく、寸法やら縮尺やらガン無視しやがって。気に入らねえなぁ、この建築」
商売道具でもあるハンマーを握り締め、振り心地を確かめる様に肩を回す。
「魂だけっても、勝手は生身とあんまり変わらねぇみたいだな」
準備万端、用意が整ったロマンを目掛け、6体のゆめにゅうどうが殺到する。
「おらよ!天下一品、釘打ち無双!!」
頭頂目掛け、大地と垂直に。
師直伝、相手の体幹をしかと捉える正確無比な六連撃が炸裂した。
「寝起きだからって、大棟梁を、ナメるなよ?」
白目をむき、泡を吹いてバランスを崩す6体のゆめにゅうどう。
しかしその体は倒れる前にどろりと形を失い、地面へと溶け込んでいった。
「うお、気色わるっ!?」
「ちょっと大棟梁、目が覚めたなら手伝って!!」
「やれやれ、人使いの荒い…しゃあねぇ、突貫工事でいくぞっ!ただし、手抜きは一切無しだ!妥協もしねぇ!」
再び大きくぐるんぐるんと肩を回すと、テルルたちの周りに残るゆめにゅうどうの群れへと飛びかかるロマンであった。
続く