少女を送り届けた際、何度も何度も頭を下げてお礼を告げる母親の、娘が見つかり安堵した顔を思い出しながら、マージンはランガーオ村の石段に腰掛け、塩パンを齧る。
結局、クイニーアマンを手に入れることは出来なかった。
しかし、沢山の笑顔を手に入れる事が出来て、満足だ。
「塩気が強いな、このパン」
強い塩味が口いっぱいに広がる。
「おじちゃん。泣いてるの?」
通りすがったドワーフの子供が、マージンの様子をいぶかしむ。
「いいや坊や、泣いてなんかないさ」
「でもパン、べちょべちょだよ?」
「こら、知らないおじさんに話しかけちゃダメって言ってるでしょ!」
母に手を引かれ、去っていく少年にヒラヒラと手を振りつつ、塩パンをもう一口齧る。
「いやぁ、本当に、塩っぱいパンだよ、これは」
誰にともなく呟くと、悲嘆にくれながら帰路に着くマージンであった。
ちょうどその頃、マージン邸では、ハクトが帰りの遅い父を心配していた。
「父さん遅いねぇ。何処へ出かけちゃったんだろ?」「そうねぇ…。まあとりあえず、半日で悪くなるものでもないし」
「そうだね」
ハクトとティードの視線の先。
マージン邸のパントリーに拵えられた戸棚の中には、マージンの分のクイニーアマンが、優しく煌めいているのだった。
~完売~