マージンはあらためて周囲に目を配る。
後方には出来の悪い喜劇の如く、幽霊列車のお尻に激突して突き破った惨状をそのまま晒しているスワンカスタム。
さすがの衝撃と質量で、いくつかの座席が弾き飛ばされ、今マージンが立っているあたりにはちょっとしたスペースが広がっている。
そして前方。
全体の内装はマージンの知る大地の箱舟と大差はないように思える。
だがしかし、前の車両とつながる扉が随分と遠い。
いや、随分どころか途方もなく彼方に見える。
「外から見たのと随分長さが違う様に思えるが…まあ、行くしかないか!」
とにもかくにも、進まないことには埒があかない。
マユミの警告を大棟梁たちに一刻も早く伝えたいというのもある。
しかし、駆けだしたマージンと同時に、車両が伸びた。
「はっ!?」
はるか前方の出来事ながら、扉が遠ざかり、ご丁寧に列車の壁もにゅっとのび、座席もその分差し込まれて、結局扉との距離が縮まらない光景が展開されるのをマージンの目はしっかりと捉えた。
「一種の結界みたいね。こういう類は、大体何かしかけか、術者がこの場にいるものだと思うけれど…」
顎に手を添えて冷静に状況を分析するマユミ。
マージンもとりあえず無策に走るのは諦め、怪しい置き物や札の類、隠れ潜むモンスターなどがいないか、念入りに車内を確認しながら進む。
そして今更ながら、ある事に気が付いた。
まばらながら、乗客が座っている。
「みんな寝てる…のか?」
しかし車内の人々は皆、安らかな表情で一様に目を閉じ、ピクリとも動かない為、今まで気付かなかったのだ。
一列、また一列と、眠る乗客を確認しつつ進むマージン。
マージンの目には、誰の親切か、ご丁寧に乗客一人一人、半身に毛布がかけられているように見えていた。
「ちょっとマージン、これって…」
そんななか、一足先に乗客たちの異常に気付いたマユミ。
「おいおい、こいつは何とも面妖な…」
指差す代わりに飛びまわって、マユミはマージンに指し示す。
乗客たちは毛布を掛けられているのではない。
下半身が半ば列車のシートに溶ける様に融合しており、その様が毛布を被っているように見えただけだった。
『どろどろよ』
先ほどのマユミの言葉がマージンの脳裏をよぎる。
「おかしいわ。さっき話した通り、死者の魂は最終的に自我を失って溶け合い融合する。でもここはまだ、狭間の世界。こんなに揃って皆が皆、形を失うには早すぎる」
まだ幼い頃、妖精の里で学んだ世界の理。
明らかにそれと反する現象に、マユミは例えようのない不気味さを感じたのだった。
続く