何処から取り出したのか、いつの間にやら水中ゴーグルにシュノーケルまで装備した、あまちゃんスタイルのマユミが、マージンにからかうように話しかける。「意外と面倒見が良いのね。もしかしておじいちゃんっ子だったり?」
なみいるゆめにゅうどうを突然現れたレオナルドが消滅させたと同時に、無限に続くかのような長さを誇った車両は嘘のように正常な姿を取り戻した。
しかし立役者のレオナルドといえばひたすらにマージンの頭を揉みくちゃにした後、すっかり呆けた表情で、マージンとマユミには見えない蝶を追いかけ回し、キョロキョロとせわしなく頭を振っている。
マユミに揶揄されたマージンはというと、すっかりポンコツなレオナルドを背中に背負い、その口には魚が突っ込んで、飛び出した半身がビチビチと尻尾を振っていた。
全身から滝のように水が流れ落ちるほどビショ濡れにも関わらず、レオナルドに揉みくちゃにされた髪の毛は依然として前衛的な鳥の巣の如き異様を誇っている。
ブッと、咥えた魚を見渡す限りの草原に吹き出して、マユミに答えるマージン。
「いや流石にさ、まがいなりにも助けてもらった恩があるからな。置いてったら寝覚めが悪い」
マージンは祖父はおろか、父親が誰なのかも知らない。
母の記憶すらおぼろげだ。
しかし今、不用意に身の上話の風呂敷を広げて、ノスタルジックな会話をしている状況ではない。
「…しかし何でもありかよ、ホントやってらんない」「そうねぇ。もう何が来ても驚かない自信があるわ」「うんうん、間違いない」
無限に伸びる車両の次に待ち構えていたのは、深い深い海の底だった。
何気なしにマージンが前方車両への扉を開いた途端、大津波の如く吹き出した海水に押し流されるように巻き込まれ、タコメットやマージスターがひしめく水の中を、水中爆雷型ギガボンバーを攻撃兼推力として体を押し出し、何とか次の車両への扉をくぐったのだ。
もちろんその間、背中にはレオナルドを背負ったままである。
ただでさえ水中で思うように動けず、さらには不自由な状態での戦闘は大変に骨が折れた。
そうしたらば今度は一転して穏やかな大草原である。マージンとマユミでなくとも、悪態の一つぐらいつきたくなるというものだ。
多少でも、と顔面の水気を拭うマージンの袖口をマユミがグイグイ引っ張った。
「ねぇねぇ、あそこにいるのテルルちゃん達じゃない!?」
「おおっ!追い付いた!苦労した甲斐があったってもんだぜ!」
満面の笑顔で駆け出す二人の目の前で、今度は岩が割れてドワーフの子供達が現れる。
「「いやそんなんアリかよ!!!」」
あっさりと前言撤回。
あまりの奇天烈な状況に、仲良くすっ転ぶマージンとマユミであった。
続く