「お高くとまっていなさんなよっ、てね!!」
まずは攻撃が届かなくては意味がない。
空に佇む堕ちた妖精を同じ土俵に立たせるべく、先陣を切って、気前よく3発のギガボンバーを投げ放つマージン。
さすがは爆弾工作員、発破までのラグタイムを計算されつくした投擲により、堕ちた妖精のちょうど頭上で炸裂したギガボンバーがもたらす爆風が、堕ちた妖精を地上へと引きずり落とす。
「ナイスだ!さすが『きけんじんぶつ』!!」
「そんなこと言うとうっかり手元が狂っちゃうんだぞ!?」
テルルとソワレの歌声が鳴り響く中、さりげなくマージンの心を抉りつつ、ハンマーとノコギリエイソードを振りかぶりロマンは敵の落下地点かつ、ハクギンブレイブが倒れている場所を目掛け、一気に駆けだすのだった。
一方、その頃ハクギンは…。
「ここは…」
視界に飛び込むのは、要塞の如く立ち並ぶ数多の砲台。
そして、もはや懐かしく感じる、親友(ハクト)の姿。
「ん…?懐かしい?」
ふと浮かんだ感情に疑問を覚えるハクギン。
今日は友達であるハクトの父、マージンが所有するマイタウンに遊びに来ている。
だが、昨日も、一昨日も、その前もずっと。
毎日、ハクトと一緒に遊んでいるではないか。
しかし、浮かぶ記憶は鮮明でありながら、まるで他人の写真アルバムを見ているように実感がわかない。
「なにボ~ッとしてるの?いくよっ!」
シュッと小気味よい音を立て、ハクトの投げたボールが空を斬る。
戸惑いつつも、ハクギンはミットでしっかとボールを受け止めた。
無言のまま、2人の間を勢いよく何度も行き交う白球。
『きっとまだ、探せてない忘れ物が…』
不意に、微かにハクギンの耳朶を打つ、2人の女性の声。
「えっ…?ハクト君?今何か言った?」
「ん?何言ってるの?ほら、早く投げてよ、ボール」
「うん、ごめんごめん」
再び幾度か白球を交わしたのちにふと、振り上げたハクギンの腕が止まった。
「…何か、大事な事を忘れている気がするんだ」
呟いて、ハクギンはまじまじと手に握ったボールを見つめる。
「それは、ハクギンがやりたい事なの?」
思いの外、近くから響いた声に顔を上げると、ほとんど目の前にハクトは立っていた。
「…う~ん、どうかな…やりたくはない、かも」
機械の体も、魔装の力も、望んで手に入れたものではない。
「それでも、ここを出ていくの?出ていかないと、いけないの?ハクギンは、本当はどうしたいの?」
本当は、父さんや母さんや、村の皆と、ずっと…。
ずっと、普通に、暮らしていたかった。
でもそれは、僕が、僕自身が、はるか昔に台無しにした事じゃないか。
『…ただ目を見開いて 夢を見る 夢を知る!』
もはや聞き間違いや、気のせいではない。
一度しか聞いていないが、この凛とした歌声は、テルルのものだ。
そして、テルルの歌声にそっと花を添える様に、控え目なソワレの歌声も、この偽りの世界に響いている。
「ああそうか…これが今の僕の、未練ってやつなのかな」
1度目は、まだ死にたくないと、身勝手な我儘で、たくさんの大切な人たちを、自らの手にかけてしまった。
だから2度目のその時は、決して悔いは残さぬ様にしよう、と思った。
そしてその通りに、満足できる死を迎えたと思っていた。
しかし死の間際。
今度は、ハクトともっと…同じ時間を過ごしたかったと、思ったのか。
「まったく、しょうがないな僕は」
これくらいの心残りは、残しても許されるだろうか。
「ハクト君。僕はもう、行かなくちゃ」
テルルとソワレの歌声はさらにボリュームを増し、もう目の前にいるお互いの声が聞こえないほどである。
「そっか。さみしいけど…行ってらっしゃい。僕の、最高の友達(ヒーロー)!!」
寂しげな笑顔を浮かべたハクトの言葉とともに、急速に覚醒へ向かうハクギンの意識。
(ありがとう。君の方こそ、僕の最高の友達だ!)
上空から響いた爆音とともに、目の前へ落下してきた敵に、ハクギンブレイブは起き上がり様のハイキックを叩き込むのだった。
続く