「聞きたい事がある!」
テルルとソワレの歌は、敵を苦しめる効果は失われたとはいえ、引き続きユグノアの子守唄への対策には必須である。
ロマンに急に話を振られたマユミはと言えば、二人の歌が止まらぬよう、両手にネオンライトを装備し、テルラー御用達のテルルの顔が特大にプリントされたTシャツ(本人非公認)を着こんで、まさに応援決戦仕様の出で立ちで珍妙な踊りを繰り返していた。
勿論、それらを事前に持ち込んでいたとは、とても思えない。
「お前さん、どうもこの世界には詳しいな?」
「ええ、もちろん」
「俺っちの想像力で、ドルセリオンを作ることは可能か!?」
「あ~なるほど!その手があったわね!」
ロマンから提示された状況打開の一手に、マユミもニヤリと微笑む。
「ドルセリオンを作る!?正気か大棟梁!?」
「いいかマージン、そもそも俺達はここに社を建てるために来た!」
「初耳ですっ!」
マージンの抗議は当然スルーである。
「社を建てる材料は全て現地調達。工具も要らない。ここは、そういう世界なんだ。強いイメージを、この世界の構造物を材料に具現化することができる。だから、お前さんも、ポシェットからギガボンバーが出てきた」
「おっ、おう…!?」
分かったような分からないような…。
明らかに取り残されているマージンへの説明を後回しにし、ロマンはドルセリオンの建造に取り掛かる。
「ふぅ~………」
深く深呼吸。
瞳を閉じて、脚部から丁寧に一つ一つ部品をイメージする。
ただその姿を思い描くだけでは意味がない。
複雑な形状、関節の構造、変形の仕組み、カラーリング…。
ドルセリオンエクセレントカラーリングバージョンプロデュースドバイOZを設計した時の一連の流れを脳内で再生するが如く、ロマンは意識を強く強く集中する。
(ほら見ろ、ハチャメチャに役に立つじゃねぇか)
何故そこまで?
採算が取れません。
需要があるんですか?
魔法建築工房OZの面々からの否定的な言葉を捻じ伏せた甲斐があったというものだ。
ロマンの脳内で着々と組みあがっていくドルセリオン。
しかしその時、異変が起こった。
「!?何だっ?イメージが…引っ張られる!?」
自分の思い描くドルセリオンの姿が、波にさらわれる浜辺の砂の城が如く乱れていくのを感じ、ロマンは悲鳴を上げた。
「あっ、ゴメン。つい考えちゃった」
下手人は、どうやらマージンのようである。
「一体何を!?」
「オレの考えた最強のドルセリオン」
「何だってっ!?」
マージンの爆弾至上主義は突入部隊のメンバーなら誰もが知る所である。
ロマンは嫌な予感にぶわっとあぶら汗が噴き出した。
ロマンの脳内のみに留まらず、実際に目の前に構築されつつあった洗練されたドルセリオンのスタイリッシュなシルエットが、ボコボコとふくらみ、丸みを帯びた異形へと変貌していく。
「これがオレとギガボンバーの、絆の力!緊急発破!ボムセリオン!!!」
マージンの名乗りに応え、丸い体で精一杯、決めポーズを描いてみせる巨体。
ドルセリオンをもじったネーミングでありながら、その原型は欠片も感じられない。
それは言うなればギガボンバーを出鱈目に繋ぎ合わせた塊。
どちらかといえばホイップゴーストの方が似ている域である。
「…あっ、何だかめっちゃ疲れた感じがする」
唐突にフラッとよろめき、膝をつくマージン。
当然ながら、イメージしたのがマージンである以上、ボムセリオン建造の精神疲労も全てマージンに計上されている。
「アホ~~~ッ!!!」
とにもかくにも、大棟梁の嫌な予感、見事に的中である。
「いやいや、倒してしまえば問題ないだろう?任せろっ!さぁ、見せつけてやろうぜっ!ボムセリオン!!」
ふらつきながらも立ち上がったマージンからの命令を受けて、ゴリラの如きマッスルポーズをとった後、ナイトメーアのもとへ悠然と歩み始めるボムセリオン。
だがしかし…。
「「「「「あっ…」」」」」
その時ばかりは、敵も味方も関係なく、歎息を漏らした。
こつんと、何気ない石くれに蹴躓き、バランスを崩すボムセリオン。
「ボムセリオオオオオオオオオン!!!???」
ドジっ子よろしくべしゃりと地面に倒れた瞬間、轟音と共にあえなく光と化すマージンの夢と希望。
超特大質量のギガボンバーが炸裂した際の爆音を、はるかに上回るマージンの絶叫が、青空に響き渡る。
「…後ろよく見えないんで何だか知らないですけどっ!?真面目にやってもらえませんかっ!!」
ハクギンブレイブは未だギガントナイトメーアをその小さな体で懸命に押し留めている。
本来礼儀正しいハクギンであるが、この時ばかりは抗議の声を抑えることができないのだった。
続く