「見かけ倒しに決まってらぁ!」
突貫工事を良しとしないロマンが、敵が動き出す前にえぐみレプリカで仕掛ける。
ワンパターンながらも、先ほどまではギガントナイトメーアを大きくよろけさせていた、回転体当たり。
しかし大地の箱舟の客車に酷似した外殻を身にまとった右腕に、容易く頭を抑えられる。
「あははははっ、軽いねぇ、軽いねぇ!!」
「馬鹿なっ!?」
そのままトレインアーマードナイトメーアはえぐみレプリカの巨体をその言葉のとおり、軽々と掴みあげると、造作もなく放り投げる。
ならばとばかりにスイッチしたドルセリオンブロスが助走をつけた渾身の右ストレートを放つが、悠然と構えたトレインアーマードナイトメーアは避ける素振りもなく、列車の先頭、煙室ドアを模した意匠の腹部で受け止める。
金属と金属がぶつかり合う甲高い音。
しかし一瞬の高音の後に、打ち弾かれたのはドルセリオンブロスの拳の方だった。
「うわあっ…!!?」
真芯から勢いを跳ね返され、ドルセリオンブロスがその肩のハクギンブレイブ、マユミ、レオナルドごとバランスを崩し転倒する。
「さて、わずかな希望も、念入りに磨り潰しておかないとねぇ?」
ゆっくりと、トレインアーマードナイトメーアは腹部のドアを開いた。
「…何だかマズイぞっ!?」
無理をおして起き上がったマージンに言われるまでもなく、皆がいっせいに悪寒に襲われた。
円形の扉の奥に覗いたのは、ぽっかりと開いた黒い穴。
その中心へ寄り集まる様に、紫紺の光が渦を巻く。
これまで絶え間なくギガントナイトメーアから放たれていた、ゆめにゅうどうを模したエネルギー。
機工の鎧を身にまとったことにより押し留められたそれらが一つに寄り集まり、放たれる時を今かと待っている。
「悪夢に呑まれ果てるがいい…!収束天邪鬼砲!!」
倒れたまま動けないドルセリオンブロスにめがけ、極大まで練り上げられた死者の嘆きが迸る。
「おおおっ!させるかぁあああっ!!」
ロマンは力を振り絞り、体勢を整えたえぐみレプリカで、射線上のドルセリオンブロスをなんとか逃がそうとした。
限界までえぐみレプリカの首に力を込め、ドルセリオンブロスを弾き飛ばす。
しかし、あまりにも強大過ぎるエネルギーの放出に、あえなく2体は巻き込まれてしまう。
「あはははっ!存外、粘るじゃないか!!」
トレインアーマードナイトメーアの嘲笑が響き渡る中、両脚を失ったドルセリオンブロスと、その雄々しい頭部から首にかけてを、背中の巨木ごと一直線に抉り取られたえぐみレプリカが無残にも地に倒れ伏した。
「…もう駄目、なのか…」
もはや、同様の巨体を構築するだけの体力は残っていない。
再びドルセリオンやえぐみを創り出した所で、勝つイメージが沸かない。
崩れ落ちそうになるロマンの襟首を、テルルが掴みあげたのは、まさにその時だった。
「アストルティアいちの大棟梁!歌姫テルルたっての依頼、できないとは言わせないわよ!?」
「いや、内容を先に聞かせて!?」
「できるの!?できないの!?どっち!?」
「いや、その、その…はい!何でも創らせて頂きますっ!!」
巻き込んでしまった事、そして、スワンボートの一件の後ろめたさもあり、パワハラまがいの受注を強要されてしまうロマンであったが、とにもかくにも、テルルの発破で戦意を取り戻したのであった。
続く