「…皆の力、借り受ける」
レオナルドを取り囲み、まるで翼のように無数の光の矢が展開される。
最初の一射に、とりわけ大きな矢を選び、放つ。
収束天邪鬼砲の速度を遥かに凌駕し突き進んだ矢は、着弾の直前で弾け、エルフにあるまじき二刀流の巨漢の幻影へと姿を変えた。
巨躯に似合わぬ流暢な剣さばきで、エルフの巨漢の幻影は収束天邪鬼砲と拮抗する。
しかし拮抗は一瞬。
じりじりと収束天邪鬼砲に押され始めた所へ、レオナルドの第2射が飛来した。
今度の光の矢は、毛皮の服に身を包み、ポニーテールをたなびかせるオーガの女性へと姿を変える。
「あの女性は…!」
その姿はロマン達にも見覚えがある。
妄執につけこまれ、海底離宮で彼らの前に立ち塞がった、古の戦士。
だが光に形造られた彼女の姿に、いつぞやの禍々しさは微塵もない。
オーガの女性の幻影は、エルフの巨漢の幻影の剣舞を妨げる事なく、まるで番いに踊り交わすような見事な連携で両の腕から閃光を放つ。
しかしそれもまた一瞬。
押し寄せる邪悪な力は残念ながら止まらない。
打ち破られ、霧散した二人に成り代わり、次の2射は、突撃魚のようなギザッ歯とツリ目に棍を携えたウェディの男と、エプロン姿にカレーの入った寸胴鍋を抱えたウェディの女性に姿を変える。
ピッタリと息のあったスイングで、棍と鍋が振り下ろされる。
幻ながら芳醇なスパイスの香りが漂うような気さえした。
優雅にタロットカードを展開するオーガが紫電を放ち、古代語の刻まれた大刀を小柄な体で軽々と振り回す和装の戦士が斬り結び、軍服を纏った隻眼のドワーフがガジェットを巧みに操る。
放たれる矢と共に、現れては消える幻影。
レオナルドは次から次へと矢を、そして仲間の想い出を放ち続けた。
絢爛な扇を両手に構えたドワーフとエルフの踊り子の舞に合わせ、ハートをあしらったスティックからベギラマの炎を迸らせるアイドル。
おかっぱ頭のプクリポの武闘家は、ネコの如き戦闘スタイルの二人と組んで激しいラッシュを仕掛ける。
「すげぇ…」
まるで一大スペクタクルを目にしているかのような光景に、ただただ感嘆のうめきを漏らすマージン。
年齢、性別、種族、そして防具から武器、その戦闘スタイルに至るまで、全てちぐはぐでバラバラ。
だが、彼らの額には、海底離宮でロマンたちがかついだ旗頭、ソウラと同じ鉢金が鈍く輝く。
「500年前、空を偽りの太陽が侵した時代。当時のウェナ諸島を襲った太陰の一族に立ち向かった、伝説の戦士団。…あのおじいちゃん、ただモノじゃなかったのね…」
呆然とただマユミとマージンが見詰めている間にも、次から次へと矢は消化されていき…ついに最後の一本となった。
最後の矢が放たれると同時、レオナルドの姿は光と消え、放たれた矢は大きな魔狼へと変貌した。
その背には、やはり光の像となったレオナルドが跨り、ひたすらに矢を放ちながら収束天邪鬼砲の光へ突貫する。
―後の世の冒険者たち。ともに戦えた事、誇りに思う―
衝突し消え去る間際、やわらかな笑みを浮かべ、ロマンたちの方を振り返った老兵。
その想いは、言葉にされずとも伝わった。
そして完全に障害を消し去った収束天邪鬼砲が、再び威光を増したその時。
「仕上がったっ!!!ハクギン!マユミ!飛べっ!!」
くわっと目を見開いたロマンの雄叫びが、高らかに響き渡るのだった。
続く