「いくつの街を…こえて…ゆくのだろう…」
戦場に澄んだ歌声が響き渡る。
聞き惚れるのはロマンやマージン、マユミやハクギンたちばかりではない。
(…聴こえる…テルル姉ちゃんの歌声…良かった、無事だったんだ…)
(見える…これがロマン兄ちゃんの…すごい…かっこいい!!)
心折られ、眠る様にトレインアーマードナイトメーアに取り込まれていた魂たち。
より絆の深かった二人を皮切りに、一人、また一人と、その魂に火がともる。
「ええい、忌々しい!!歌を止めろぉぉぉ!!!」
完全に取り込んだ筈の魂たちが、トレインアーマードナイトメーアの体内で蠢き出す。
その元凶たるテルルの歌を妨害するべく、ドルタウロスの上半身、その向こうに鎮座するコンサートステージを睨み、突進するトレインアーマードナイトメーア。
「「邪魔はさせない!」」
ロマンがステージを築き、マージンがミュージックを奏で、テルルが歌う。
渾身の三重奏を護らんと、ハクギンブレイブとマユミによるドルタウロスの操縦にも熱がこもる。
ドルタウロスは背中に背負ったステージを死守すべく、両手を広げ、トレインアーマードナイトメーアとがっぷり組み合う。
先程までは圧倒されていた相手と互角、それ以上に渡り合えている理由は、合体によるパワーアップと重量が増しただけではない。
テルルの歌声はハクギンブレイブとマユミにとって何よりの鼓舞となるだけでなく、トレインアーマードナイトメーアの外装として取り込まれている数多の魂たちにも熱く訴えかける。
例え終わりを迎えた命であろうとも、夢を信じろ、明日へ走れと。
それは、生者の独り善がりな、本当に勝手な願いかもしれない。
それでも、死者の為に命をかけて歌を届ける彼らの姿は、ひとつの音楽となって、生と死の狭間の世界に響き渡るのだった。
そして、メロディが強く優しく響く度、トレインアーマードナイトメーアの装甲がボロボロと剥がれ落ちていく。
「未来へ、また紡がれていく大事な命。全部そっくり返してもらうわよ!」
間奏の間に啖呵をきり、テルルの歌声は2番に移り変わりさらにボルテージが上がっていく。
「おのれぇぇぇっ!」
もはや装甲は全て剥がれ落ち、もとの巨大なナイトメーアに戻り果てた。
さらには派手な二日酔いの朝を迎えたが如く、激しい嗚咽を繰り返す。
外装にされていた魂だけではない。
ギガントナイトメーアの体内に囚われた魂たちも、必死に外へ出ようとしているのだ。
そんな状態で、ドルタウロスの敵になれようはずもない。
破れかぶれに振り下ろされた赤い枕を、ドルタウロスは左腕で難無く受け止める。
「「「「ここから、出…て、いっ…けえええええええええ!!!」」」」
テルルの歌の終わりを待つまでもない。
むしろ、彼女の歌声をこれ以上こんな奴に聴かせるのは勿体ない。
ハクギン、マユミ、ロマン、マージンの渾身の叫びをテルルの歌声に添えて、大きく開いた前脚を折り曲げ、極限まで身を屈めた姿勢からの、まさしく天を突く渾身のアッパーカットが、ギガントナイトメーアの腹部に炸裂する。
腹を支点に天高く打ち上げられたギガントナイトメーアの口から、虹を描くが如く、取り込まれていた魂たちが解き放たれていく。
「おのれ、逃げるな、お前たちはあたしが人間になる為に…」
自らが放出する魂の濁流に押されるように吹き飛び、みるみると縮みながら、堕ちた妖精は列車の壁を突き破り夜の闇へと消えて行くのだった。
続く