列車の中をあべこべな異界たらしめていた元凶が居なくなった事で、あたりはもとの大地の箱舟の姿を取り戻そうとしている。
堕ちた妖精から解放された人々の喧騒を肌で感じつつ、ロマン達は役目を果たした巨神を見上げると、表情などないはずの鋼鉄の相貌が、今だけは柔らかに微笑んでいる気がした。
「やるせないが、ドルタウロスは列車には収まらない」
大人しくマージンによる改名を受け入れたロマンが、慈しむような笑みを浮かべ、ドルタウロスの脚部に触れる。
「せめてこいつを、この列車の守り神にしたいと思うんだ」
「いいわね」
「最っ高なアイディアだぜ、大棟梁!」
勿論、反論するものなど誰もいない。
「僕の拙い操縦に応えてくれて、ありがとう」
「次があったら、私の専用機としてよろしくね」
「カッコ良かったぜ。拳が爆発すりゃなお良かったが」
「あなたの背で歌った事を、忘れないわ」
面々は思い思いに別れを惜しみつつ、ロマンにならいドルタウロスに手を添える。
「お前は今から、この列車の守り神に生まれ変わる。よろしく頼むぜ」
ロマンが、最後に別れを告げ、瞳を閉じる。
5人が触れている部分から光が拡がり、ドルタウロスを包み込んでいく。
やがて光の繭となり、そしてみるみるうちに小さく小さく縮んでいった。
「…よし、かんせ…」
イメージ通りに仕上がったと出来栄えを喜ぼうとしたロマンだが、不遜にも、おもむろに社に手を突っ込み、直後ボキッと乾いた木を折る音が響く。
「あ〜っ!!何すんのよ!」
「「「「いやアホか!?」」」」
簡素ながらも厳かな造りの社の中、皆が御神体としてイメージしたのは、勿論ドルタウロス。
今後、列車を狙う不届き者を追い払うよう願いを込めて、ギガントナイトメーアにアッパーを喰らわせ天に打ち上げたその瞬間を造形した、その先。
くの字に折れ曲がったナイトメーアの背からさらに棒が伸び、その先端にはかなり美化されたマユミが女神像の如く両腕と羽をひろげていた。
問答無用でロマンがへし折ったのは、その部分である。
「これはこれでスティックとしてありかも…あ、でもここから持ち出せないか。ちぇっ」
残念がるマユミであったが、自分を模した人形を先端に頂くスティックなんて振り回した日には、ちびっこ達の妖精に対する幻想が粉微塵である。
心底安堵する4人であった。
完成した社を乗客達の手も借りつつ運び、先頭車両に据付ける。
「…これで、クエスト完了、だな」
ロマンの声には安堵のみならず、幾ばくかの哀しみが覗く。
クエストの完了はすなわち、別れの時を意味していた。
続く