一方、ごましおと同じくヘトヘトになって自室のベッドに寝そべっていたハクトだが、およそ一ヶ月ぶりに帰ってきたマージンに叩き起こされ、眠い目をこすりキャッチボールに興じていた。
ようやく久々のキャッチボールに体が慣れてきた頃、唐突に父から爆弾発言が放られる。
「あ~そうだハクト、父さんな、ハクギン君に会ったぞ」
「…へっ?」
思わず変な声が漏れたハクトの頭にコツンとボールが直撃した。
「おいおい、ちゃんとボール見てないと危ないぞ~」
「えっ、あ、うん。…うん?」
まだ話を良く飲み込めていない頭をまわし、慌てて拾ったボールを投げ返す。
父はステレオタイプなオヤジギャグが得意技で、同じ笑えない冗談でも、こんな嘘はけして言わない。
きっと、本当のことなんだろう。
一体どうやってかは分からないけれど、昔から、父、マージンはそんな侮れない男なのだ。
「ハクギン君は、良い子だなぁ…」
それを証拠に、父の言葉に潜む寂しさと哀しみを、ハクトは感じ取った。
「僕の親友だもの。当たり前でしょ!」
「そうか、そうだな~。ところで、ごましおくんとのクエストはどうだったんだ?母さんに手紙は見せてもらったが…」
「それはね~…」
自身の冒険譚を語りながら、ハクトは思いを馳せる。
父とハクギンは、一体どんな冒険をしたのだろう?
きっとハチャメチャで、ドタバタで、ロクでもない、とても素敵な冒険だったに違いない。
素直に羨ましく思うハクトとマージンの白球のやりとりは、日が暮れるまで続いたのだった。
そして、こちらの二人は実に数ヶ月以来の再会を果たす。
待ち合わせの地、カミハルムイにて、すっかり懐かしく感じる人影を見つけ、駆け寄るライティア。
「久しぶ…痛っ!」
久方ぶりの友との再会は、鋭いグーパンチのおまけ付きだった。
「…おかげで散々だったわ」
ライティアと久々の再会を果たしたセイロンは、デスマスターから一歩踏み外し怨霊にでもなってしまったかのような恨めしい表情でライティアを睨む。
「あはは、ごめんごめん。でも、いい機会になったんじゃない?」
「は?何が?」
あらためてもう一度パンチを繰り出しそうなセイロンの剣幕に対し、ライティアは怯まず切り返す。
「いやほら、セイロンちゃん、私しか友達いないじゃない?」
「首をはねられたいのかしら?もしかしてだけれど、死霊の貴女とだったら、友達になれるかもしれないわね」
セイロンは物騒な話を事も無げに言ってのけ、スラッと大鎌を抜き放つ。
「わわわっ、ちょっとタンマ!街中!街中でござるよ!?」
慌てて走り出すライティアの背を追う。
しかし言われてみれば、この数ヶ月間は実に刺激の多い日々だった。
慣れない敬語は絶対変だっただろうと、思い出しては火が出たように赤面してしまうし、そもそも初対面の人に挨拶する時は都度、アズランの領主、タケトラの屋敷の舞台から飛び降りるような心地だったが、思い返せば新鮮な思い出である。
だがしかし、やはり友(…ということにしておこう)の隣の方が居心地が良い。
また少しの間は、付き合ってやろうじゃないか。
鮮やかな蒼天の空のもと、しばしの間、カミハルムイにライティアの悲鳴と、心底楽しそうなセイロンの笑い声が響き渡るのだった。
~完~