「マジか!?今ここでか!!間が悪いにも程がある!」
思いもよらないタイミングでのターゲットの出現にロマンは狼狽する。
くだらない追いかけっこをしている最中、ソナー画面の確認を皆すっかり忘れていた。
「あれは…まさか!」
明らかにイカの特徴を持ちながら、タコのような真紅の肌をもつ触腕。
そして、海底離宮を目指す航路上という地の条件が、アカックブレイブに一つの閃きをもたらす。
「オセアーノンか!?」
天高く持ち上げられたマージンを見上げるアカックブレイブの袖口をちょいちょいとひっぱり、きみどりが口を開いた。
「あのね、代わりに説明すると、私達の目的はあのイカちゃんだったの。ルシナ村の皆がね、困ってるらしくてね~」
アンモニア臭漂う巨大なゲソに弄ばれるマージンを皆で右へ左へ視線で追いながら、きみどりが説明した裏事情はこうである。
ルシナ村の近海では、かねてよりギガボンバーを悪用した密漁が横行、対策を拱いているうちに、海域に散らばる血の匂いに誘われて、海底離宮突入部隊に因縁あるあのモンスター、オセアーノンが出現してしまったのだ。
事そこに至り自力での解決は困難と、ルシナ村の出した討伐の依頼をロマン達が引き受けたのだ。
「だったら何で最初からそう言わない?それにさっきの写真は一体?」
いつしか、哀れなマージンの姿に、アカックブレイブの怒りも収まっていた。
「あ~、ちょうどそれはですね、ちょっとばかりハイだったというか…」
数週間前、ロマン達が下見に訪れた眼前で、まさに繰り広げられていた違法漁業。
爆弾を愛するマージンにとって、爆弾の悪用はけして見逃せるものではなかった。
ロマンの敵船の間を縫う神がかり的な操舵テクニックにギガボンバーを添えて、勿論爆発は海中への影響を極力抑えるべく指向性を持たせ、瞬く間に船団を壊滅させたのだ。
ヴェリナードの警備船と遭遇したのはまさにその瞬間である。
破砕した敵船の資材はロマンが趣味の工作用に、そして乱獲された魚介類はせめてルシナ村へ運び、正規のルートで流通にのせ、奪ってしまった命を無駄にしない為に。
まさに大漁の収穫物を携えて、凱旋途中だったという訳だ。
「海賊行為認定とかされちゃうと面倒だなって思って、煙幕焚いて逃げました」
ペコリと頭を下げるロマン。
「はいはい!煙幕は私のお手製なんだよ!」
「きみどりちゃん、それは黙ってようか…」
自慢気に手を挙げるきみどりをクマヤンはそっと制した。
「で、そろそろアレ、なんとかしないと」
散々千地に乱れた話をマユミがざっくり切り上げると、振り回され続けて三半規管の限界をとうに踏み抜き、すっかり顔の青ざめたマージンに皆の視線が集まる。
「…もう少し、放っておかないか?」
これもまた、良い薬になるかもしれない。
一瞬、魔が差したが、今の自分はアストルティアのヒーロー、アカックブレイブなのだと思い直し、拳を構える。
「…いや、冗談だ。私も協力する。ルシナ村の為にも、何としてもオセアーノンを倒し、ついでにマージンを助けるぞ!!」
実はロマン達が、クマヤンの依頼で食材としてオセアーノンを討伐する、そのついでにルシナ村のクエストを受けた事などつゆ知らず、海洋の安全の為真剣に気合を入れ直すアカックブレイブであった。
続く