「さぁて、どうしたもんかね」
フツキがちょうどヴェリナードへ向かっていた頃、一方のマージンは走行中の大地の箱舟その車外、屋根上に寝そべり、強風に耐えながら独り言を呟いた。
ウヅキの執念は凄まじく、落葉の草原を抜けカミハルムイに辿り着いた頃には既に、至る所にマージンの手配書が貼られていた。
スニーキングに時間を弄し、フツキの乗った車両より一本遅れて何とかグレン方面への大地の箱舟に潜り込んだは良かったものの、手配書はバッチリ車内にも貼られていて、乗り込んで早々に軽薄そうな笑顔の自分と顔を合わせる始末である。
「あ~、見たことあるおじちゃんだ!」
さらには無邪気な子供に、手配書と見比べ指を刺されてしまった為、親を呼ばれる前に慌てて箱舟の屋根上に這い上がり、今に至る。
この先の苦労を思いげんなりしながらも、レンドアへ続く海上の線路の道行きは風光明媚で、こんな状況でなければ、とは思えど幾分かマージンの心を和らげた。
しかし、やがてレンドアをその視界に捉え始めた頃、そんなささやかな憩いのひとときを突き破り、唐突に凛々しい声が響き渡る。
「見つけたぞ、悪党め!!」
「何だ何だ?一体何処から!?」
大地の箱舟の進行方向、見渡す限りの青空と青い海の真っ只中に、腕を組んで佇む赤い女傑。
「これ以上の狼藉は、天が許そうとも、このアカックブレイブが許さない!」
アカックブレイブの愛機、ドルストライカーはその両端、戦闘時にはアカックブレイブの専用武器ともなるハンマーの打面を下方に向け、ドルセリンを燃焼する事によるフレアを放ち空中を舞っていた。
「そんな事できたのかよ!もうビックリドッキリメカ戦隊に改名しろ!!」
超駆動戦隊ドルブレイブ。
瞬く間に各国の厚い信頼を得るに至った最大の理由は、その即応力にある。
おきょう博士が鎮座する情報管制システムで収集された様々な情報は、トリアージの如く重要性を基に分類され、最も現地に近いメンバーの通信端末へ即座に伝達され、対処にあたられる事になる。
さらには、その事件に関連しそうな情報の全てもおきょう博士謹製のシステムで統括され、随時状況を現地警察機構を上回る速度で把握できるのだ。
その素早さが、今まさにマージンの身に襲いかかっていた。
「海底離宮で共に戦ったマユミに、無関係な酒場の店主、さらには相棒のフツキまで…3人もその手にかけるとは!」
「はぁ!?3人ともピンピンしてるっての!!…多分だけど!!」
マユミとクマヤンに関してはウヅキから聞かされただけだが、少なくともフツキは峰打ちだ。
「嘘をつくな!全てこの手配書に詳らかに書かれているぞ!!」
「はん?」
言われてようやくアカックブレイブの握る手配書の罪状に目を向けると、無差別な連続爆破行為にて3人を葬ったと書かれているではないか。
「…あんのクソったれ!!」
いくら何でも、軽症者しか居ない爆発騒ぎに、容疑の確定していない状況下での逃走、以上の内容にしては手配が早すぎると思っていたが、あっさり謎は解けた。
有り得ないくらい罪状が捏造で特盛りである。
そして哀しいかな、よもやアズラン警察機構公式発布のお墨付きの手配書を、如何にドルブレイブと言えども、取急ぎは疑う余地もない。
「話は後で聞く!本当に無罪だというなら捜査で潔白も証明されよう。ティードの為にも、ひとまずは神妙にお縄につけ!」
ダン、とドルストライカーの中央台座を蹴りアカックブレイブが跳び上がると、ドルストライカーは分離し見馴れた二振りのハンマーへと転身、それぞれアカックブレイブの腕に納まった。
そのままマージンへと振り下ろされた一撃をすんでで躱すと、ハンマーがメコリと大地の箱舟の天井を凹ませる。
さらには先程まで火を吹いていた熱で屋根の塗料が焦げ、独特な薬品臭が立ち昇った。
「そうは言われても、後で!」
牽制の意味もあったのであろう、避けられた事にまったく動じず、左、右と繰り出されるアカックブレイブのハンマーの連撃を紙一重で回避し続けるマージン。
「話を!」
アカックブレイブの攻撃、その一撃一撃はとても重たく、ハンマーが空を切る風圧だけでマージンのうなじがチリチリと悪寒で逆立つ。
「聞く気がないよね!?」
メンコの如くぺちゃんこになった相手から何を聞こうと言うのか。
「何で避ける!?」
「死にたくないからです!」
これ以上避けるのは困難か、という所で間一髪、大地の箱舟はレンドア駅へ滑り込む。
「どいてくれどいてくれ!凶悪犯が通るぞッ!」
どうせレンドアにも手配書は行き届いているに決まっている。
マージンは大地の箱舟から飛び降り破れかぶれに叫ぶと、観光客や住民の悲鳴を一身に浴びながら、レンドア駅を駆け抜けるのだった。
続く