「…絶対に、大丈夫だよ!」
不意に、暗闇に捕われたごましおの耳に、光が届いた。
見上げた先では、慌てふためいた様子の劇団員達を前に、昨日のウェディの少年、レジェが啖呵を切っている。
「ハクギンブレイブはヒーローだもん!それに僕、もう一人、ヒーローを知ってるんだ!」
困って静止しようとする母親を振り切って、レジェはなおも叫ぶ。
「レタス色のお兄ちゃんが、絶対に何とかしてくれる!!」
レジェのエールを胸に灯し、次の瞬間にはごましおはスーツをまとうと、男たちが姿を消した裏路地へ、猛スピードで飛翔した。
高速でオルフェアの裏路地を滑空するレタシックブレイブは、瞬く間に先程の怪しい二人組の姿を見つける。
男たちの抱える荷物の梱包はさらにほぐれ、完全にハクギンブレイブの頭が露出していた。
「ちょいやっさ〜ッ!!」
狭い裏路地、占い屋の暖簾を巻き上げ、酒場の看板を吹き飛ばしながら、低空を飛行しレタシックウイングで強烈な膝カックンをかますレタシックブレイブ。
体重差にバランスを崩しつつも、何とか着地し、舞い上がったハクギンブレイブをお姫様抱っこの様相で受け止める。
「何しやがる!?」
「何だこの緑のちっこいの!?」
男たちはすぐにハクギンブレイブを取り戻そうと息巻くが、騒ぎを聞きつけた酒場の客達や劇団員が路地裏にひしめき始めるのを見るや、慌てて退散した。
「ちくしょ〜っ!また失敗だ!」
「兄貴!置いてかないでほしいでやんす〜!!」
レタシックブレイブが逃げさる男たちの背を見えなくなるまで睨んでいるうちに、ハクギンブレイブは拘束から逃れ、彼を探していた劇団員やショーを見に来た観客達が続々と集まってきた。
「ほらね!やっぱり助けに来てくれた!!」
先陣をきってレタシックブレイブに抱きつくレジェ。
「やあやあ、ありがとうありがとう!」
「こんなに若いのにドルブレイブの一員なのね。偉いわ」
「かっこいいぜ、ヒーロー!」
たちまち再び祀り上げられてしまうレタシックブレイブ。
言わなければ。
今度こそ。
「…あっ…あの!!」
レタシックブレイブが突然大きな声を出したことにより、あたりは嘘みたいに静まりかえる。
「ごめんなさい!!」
囚われのハクギンブレイブを追って飛び出した時の気持ちを思い出し、ごましおは思いの丈を一気に吐き出した。
「オレ、ホントはドルブレイブじゃなくて…もちろんヒーローでもなくて…その…ただのごましおで…」
当然、叱責の声が飛んでくるだろう。
身構えたごましおだったが、代わりにかけられたのは、レジェの母親の優しい声だった。
「あら、そうだったのね。ドルブレイブだと勘違いしてしまって、こちらこそごめんなさいね。あらためて、小さなヒーローさん。貴方のお名前を教えてくださらない?」
恐る恐る目を開いたごましおを待ち構えていたのは、皆の満面の笑顔。
「でも…オレ…オレ…」
それでも戸惑うレタシックブレイブの背を、ハクギンブレイブがそっと支えた。
「ほら、皆が待ってますよ。ヒーロー」
「…オレ、レタシックブレイブ!!皆、よろしくおねがいします!!!」
こうして、ハクギンブレイブ誘拐事件を見事解決した小さな駆け出しヒーローは、鳴り止まない喝采に包まれたのだった。
続く