「さぁ、皆さん。遅くなってごめんなさい。ハクギンブレイブショーが始まりますよ!テントの方へ、ぜひお越しください!!」
座長とハクギンブレイブの案内に促され、レタシックブレイブの活躍の熱に浮かされたまま、笑顔の観客達はテントへ向かうのだった。
その後、大変なトラブルに見舞われたものの、ハクギンブレイブショーは大盛況で幕を下ろし、最大の功労者であるごましおは、特別にハクギンブレイブの控室へと招待されていた。
「今日は本当にありがとうございました」
あらためて深々と頭を下げるハクギンブレイブ。
「いえ、そんなとんでもない。それよりも、オレに構わず着替えとかメイク落としたりとか…」
ハクギンブレイブはいつも通りのコスチュームを身に纏っている。
ごましお自身、レタシックスーツを着ていると蒸れて汗が凄いので、思わず気遣いが出た。
「ああ、お構いなく。これが僕の体なんです」
「えっ!?」
「誘拐されかけたのもそれが原因なんですが…まあ、君になら話しても問題無いでしょう。僕、たけやりへいなんですよ」
「おっ!?」
「はははっ、やっぱり驚きますよね?」
「うん」
バイザー越しに気さくに笑うハクギンブレイブ。
その様子は本当に普通で、ごましおにはとても信じられなかったが、逆にそんな嘘をつく必要性は何処にも無いことから、大人しく飲み込んだ。
「それはさておき、お呼び立てしてごめんなさい。お節介ながら、君が…悩みを抱えているように感じて…」
「あっ、うん、それはその…」
「ドルブレイブと誤解されて、後ろめたく思っていた…違いますか?」
ハクギンブレイブは先の路地裏でのやりとりで、何となくあたりをつけて問いかけた。
「うっ…!その通りです…」
ハクギンブレイブに見事正中を突かれ、赤面してしゅうしゅうと煙をあげるごましお。
「僕は目覚めた時、記憶がありませんでした。今でも何も思い出せません。僕にあったのは、ただ、ヒーローにならなければ、なって償わなければという、漠然とした思いだけです」
突然訳のわからない話を始めてごめんなさい、と断わりながら、ハクギンブレイブは続けた。
「そんな、歪な僕を諭すように、アカックブレイブさんは話してくださいました」
それは、今もお世話になっている、劇団の座長に挨拶する直前のこと。
『ヒーローになるのは難しいぞ。何故ならば、ヒーローになりたいと思うのは、君の意志だ。だが、君をヒーローにするのは、君が助けた人々だ。そして、この先、君を見続ける人々だ。この道を往くならば、君は、これからの人生全てをかけて、アストルティアの人々に、自分がヒーローであると、証を立て続けねばならない。それでも、目指すか?ヒーローを』
その言葉を、ハクギンブレイブは今でもずっと、噛み締め続けている。
「ドルブレイブじゃなくたって、君は僕の、そして今日の観客、皆のヒーローです。誰が、なんと言おうとも。ごましおくん、いつか君が、僕のことをヒーローと言ってくれたように」
サイン会に参加した子供なんてもはや星の数だろう。
ごましおは、その中でもハクギンブレイブが自分のことを覚えていてくれた事に対する感動と、アカックブレイブの語ったヒーローの重みを、まっすぐ受け止めた。
「うん、お互い頑張ろうね、ハクギンブレイブ!!」
まだまだ非公認英雄の二人は、テントのビニール張りの窓から差し込む夕陽を背に、堅い握手を交わしたのだった。
~完~