「さて、そうと決まれば、脱獄しようかね。フツキ君、ちょっと離れていたまえ」
何気なく不穏な発言を繰り出すと、おもむろに立ち上がり、フィズルはポキポキと指を鳴らした。
ポケットから大きな赤いボタンの付いたコントローラーを取り出すと、ポチポチと規則的に操作する。
「こ、これは!まさか…!?」
先程、音管再生機を取り出したガラクタの山を突き破り、機械仕掛けの黒光りする巨大な掌が飛び出した。
「そうとも。憎っくきマージンに粉砕された私の最高傑作、フィズルガーZが、今まさに蘇る!」
「おっ、おおお………」
ゴゴゴゴ…と地響きとともに、ゆっくりと瓦礫の山から這い出る異形に、感嘆と畏怖の呻きを洩らすフツキだった、のだが。
「…あれ?」
「これぞ、グレートフィズルガーZ!…ただし右前腕だけ」
ふよふよと悪魔の右手・左手の如く浮遊するグレートフィズルガーZ(未完成)に飛び乗り跨がるフィズル。
「ちなみにこいつは効果音など演出操作用のリモコンだ」
ポチリと再度、リモコンのボタンを押すと再びゴゴゴゴ…と物々しい音がフィズルの手元から鳴り響く。
「何と人工知能搭載でジャンケンもできるぞ!」
グレートフィズルガーZは誇らしげなフィズルに合わせて、グーチョキパーを象ってみせる。
「ヒマ、なんですね…」
技術者として感嘆すべき発明ではあるのだが、しょうもなさにガックリと肩を落とすフツキであった。
「とにかくだ、こんなチンケな扉、ガーちゃんならデコピン一発で吹き飛ばせる」
端的かつ可愛らしい略称まで設けているあたり、フィズルは相当にグレートフィズルガーZにご執心らしい。
そして製作者の意向を汲み、忠犬よろしく命令を実行に移そうと、ガーちゃんが中指と親指で素振りしながらゆっくりと牢屋の扉に近づいていく。
「何を藪から棒に物騒な話をしている!」
「いやはや、これはまずい所で出くわしたものだ」
まさしく鍵を吹っ飛ばそうとした所でフィズルとガーちゃんを制したのは、タイミング良く牢獄を訪れた呆れ顔のユナティだった。
「…はぁ、私は大変不本意なんだがな。マージンに一杯喰らわせる為なら致し方ない」
心労からくる頭痛に目頭を押さえながら、ユナティが懐から取り出したのは、ディオーレ女王の捺印済みの特赦による三日間限定外出許可書、天下御免の免罪符である。
「アズランからの緊急要請でな。凶悪犯罪者マージンを捕らえるため、可能な限り最大の協力を求める、と来ている。だがあのアホの為に割く労力も人的資源もヴェリナードには無い。そこでお前の出番という訳だ。渡りに船で、フツキ殿なら、監視役も申し分無いだろう。…マージンの罪状にフツキ殿の殺害も含まれているのは気になる所だが…」
とうのフツキは目の前でピンピンしているのだから、訝しむのは当たり前だ。
「何やら色々と裏がありそうだな。くれぐれも気を付けてな」
何だかんだ悪態をつきながらも、フツキの事は勿論ながら囚人であるフィズルの事も心底心配しているあたりに、ユナティの人柄の良さが滲み出る。
ともあれこうして合法的に、アカックブレイブに次ぐ新たな追跡者がマージンを捕えるべく動き出すのであった。
続く