「やべぇ…もうそろそろ…息が続かない…」
アカックブレイブに追われレンドアを北から南、また北へ、一体何周、何時間駆けずり回ったことだろう。
もう走るのを辞めたい。
座り込んで思いっきり酸素を吸いたい。
そう乞い願っても、ふと振り返れば鬼の形相のアカックブレイブがハンマー両手に追ってくる。
マージンは、自分と違ってまだまだ元気一杯なその姿により一層げんなりした。
その一瞬の気の緩みが足のもつれとなってレンドアの地に転がるマージン。
「獲った!」
すかさずの跳躍から振り下ろされるアカックブレイブのハンマーだったが、思わぬ邪魔が入る。
「ほら見たことか。これほどの素早い包囲網、マージンであってもボロを出すと踏んだが…大正解だ」
「ボロだけじゃなく脳みそも出そうですよ!?」
「任せたまえ!唸れ古代の鉄拳!ロケットパンチ!」その背に乗せたフィズルの音声信号に従って、断絶された肘部分から推進剤の蒼白い炎を盛大に噴き出し、飛行機雲をたなびきながら飛来したクロガネの拳と、アカックブレイブのフルスイングが真っ向からぶつかり合う。
一瞬の拮抗ののち、ガチィッと音をあげ互いに弾かれる両者。
「いよぅ、マー坊。相変わらずヤベェ奴に絡まれてるみたいだな」
「フィズルのおっさん!?まさか脱獄したのかよ!?」
「それをお前が言うか?どの口で?」
冷たい声にマージンが視線を上げると、すぐ背後に立ち、見下ろすフツキと目があった。
落葉の草原で貰った強烈な一撃、打たれた腹はまだズキズキと痛むが、それ以上に、マージンが一人先走った事に対する怒りから、フツキの言葉は実に淡々と発せられる。
「うっ…」
久々に相対するマジギレモードのフツキに、流石のマージンも言葉に詰まる。
そんな珍しくしおらしい表情に毒気を抜かれたフツキは、照れ隠しにマージンから目を逸らして話を続けた。
「はぁ…まあ、叱責は諸々後回しにしよう。俺もだいたいの事情は把握した。納得はいかんがお前の行動に理解はできる。その上で、だ。…俺にも何か手伝わせろ。…不本意ながら、相棒、だろ?」
フツキは自分でもらしくないことを言っていると自覚し火照る頬を隠すように、マージンから依然顔を逸したまま、手を差し伸べる。
「汗臭い友情に浸っているところ済まないんだがね!」
活動写真であればオルゴール調の涙を誘う音楽が流れようというワンシーンを遮ったのは、切羽詰まったフィズルの声だった。
「マージンならとうに逃げたぞ!!そしてこの話が通じないお嬢さんを何とかせんと我々がゲームオーバーだ!」
実質フツキの独り言で終わった友情劇場の最中も、アカックブレイブを押し止め続けていたフィズルとガーちゃんであったが、如何せん推進剤も限りがあり、距離をもっての加速も見込めない状況下では、古代文明の力すら、純粋な筋肉には劣る。
「その顔、知っているぞ。ヴェリナードで狼藉を働いたプクリポだな!よもやマージンと繋がっていたとは!」
再度とんずらこいたマージンの後ろ姿にも腹が立つが、先ずは前門の虎を何とかしないことにはフィズルの言う通り先が無い。
「アカックさん!とりあえず武器をおさめてください!」
「まだ仲間がいたか!まとめてかかってくるがいい!」
何故だが完全にバーニングアップしているアカックブレイブ。
長時間に渡る追いかけっこの最中、マージンによる罵詈雑言を浴びせられた故ではあるのだが、フツキは知る由もなく、明らかに様子の違うアカックブレイブに戸惑うしかない。
「落ち着いてください!!俺です、フツキです!」
フツキは一か八か、最悪ハンマーの一撃をもらう覚悟でアカックブレイブとフィズルの間に立ち塞がる。
「マージンが殺したはずの、フツキです!」
叫びながらスーツの回路をフル稼働、フツキは両脚にズッシード、クロスした両腕にスクルト効果を二重に宿し、更には自身にペタンをかける。
メコッと悲鳴をあげてレンドアの大地が沈み込んだ。
「フツキ!?生きて…」
さすがに我に返るアカックブレイブだが、振り始めたハンマーは際どいところで止められなかった。
「おぅふ…!」
それは幻の呪文アストロンにも匹敵すると想定した鉄壁のコンボであったが、あえなく強固な守りを貫通し、背後に浮かぶグランドタイタス号の方向へフツキは見事に吹っ飛ぶ。
「あれはしかし…今死んだかもしれんな…」
ガーちゃんに跨ったまま、青ざめるアカックブレイブと、場外ホームランよろしくグランドタイタス号に衝突したフツキを交互に見やるフィズルであった。
続く