「本ッ当に申し訳ない!!」
それはそれは、見事な土下座であった。
グランドタイタス号前の波止場。
目に映えるフツキの水色のスーツと、アカックブレイブの炎の如き赤い姿は、相乗効果でよく目立つ。
「大丈夫です、気にしてませんから。全部マージンが悪いんです」
マージンにやられた鳩尾に続いて、今度は背中を強打した。
大きくのけぞり、腰を回して、衝撃で強張った背筋を引き伸ばす。
今日は厄日だ。
それもこれも全てマージンが悪い。
あらためて相棒への怒りを新たにするフツキであった。
「いやしかし、それでは私の気が…正義の番人にあるまじき所業を…。そうだ!君も一発私を殴ってくれ!」
「いやいやホントに、気にしないで!それより悪目立ちしてますから俺たち!早くここから離れましょう!!」
フツキはともかく、超駆動戦隊ドルブレイブのリーダー、アカックブレイブは超がつくほど有名だ。
加えてマージンを追いかけ後発のフツキ&フィズルのコンビがレンドアへ引き返すまで、長時間に渡りレンドアでマージンとアカックブレイブが不毛なマラソンを続けていた事も災いし、グランドタイタス号前はすっかり黒山の人だかりである。
人混みを掻き分けるようにしてフツキとアカックブレイブが通りまで戻ったところで、ふよふよと浮遊しながらフィズルとガーちゃんが合流した。
「…どこに行ってたんです?」
フツキはそれを粘り気を限界まで詰め込んだジト目で睨みつける。
最初こそグランドタイタス号にピクトグラムの如くめり込んだフツキを引きずり出すなど、甲斐甲斐しく看護にあたっていたフィズルだが、アカックブレイブが猛然と走り寄り、砂煙を巻き上げながらスライディング土下座を繰り出したあたりで姿を消していた。
「いやいや、あれだけ人が集まると、もしかしたら私を知っている者がいるかもしれないじゃないか。大人の配慮というものだよ」
それは言われてみれば筋の通った話ではある。
「それと、シガール町長に話を通しておいたぞ。大地の箱舟は現在、レンドアでは停車しない。グランドタイタス号も今日は出港の予定も無い。マージンは袋のネズミだ」
「シガール町長に!?一体どうやって…」
「なぁに、サンドストームは顔が広いのだよ」
いつかマージンから聞いたことがあるようなないような…。
「状況的に、あまり時間をかけている余裕はない。サクッとマージンを狩り立てるとしようじゃないか」
フツキはサンドストームという単語に思いを巡らせようとした所で、フィズルに切り出され大事な事を思いあらためる。
今回の一件には、未確認だがティードやハクト、フライナの命がかかっているのだ。
「…厄介なことしてくれやがる」
パーティを組んだ3人の様子を、マージンはレンドア中央の灯台から見つめていた。
メンテナンス要員など一部の者しか知らないこの場所からは、大地の箱舟の背中もよく見える。
駅を出た端の大地の箱舟に飛び乗る算段だったのだが、先程から大地の箱舟は上下線ともレンドアに停まることなく高速で走り去って行く。
「フィズルのおっさんの仕業か?…クソッ!」
相手がサンドストームの残党である可能性が高い以上、自分が失敗する事も想定してフツキに諸々を託した訳だが、まさか獄中のフィズルを伴い、こうも早く追いついてくるとは、本当に誤算だった。
「…さすがはオレの相棒だぜ」
自身が追い詰められている状況ながら、あらためて相棒の運と力量に笑みがこぼれる。
「さぁてどうしたものか…」
とはいえ、こちらも譲れないものがある。
何としてでもここを出ねばならない。
大地の箱舟を封じられている以上、あまり悠長に考えている余裕もない。
眼下ではアカックブレイブと話し込んだ後、手分けして左右に散るフィズルとフツキの姿が見える。
アカックブレイブはそのまま灯台に入ってくるようだ。
いずれこの場所にもやってくるだろう。
「万事休す…いや?まてよ!手ならあるじゃないか!」
眼下のレンドアの街並みに佇む白いとんがり帽子を見つめ、ニンマリと微笑むマージンであった。
続く