「一回たった50ゴールドで爽快にひとっとビュン!バシルーラ如何ですかぁ!!」
多くの人々で賑わう、グランドタイタス号前の波止場に、元気な声が響き渡る。
だがしかし、いたいけな少女の呼び声を気にも止めず、人々は慌ただしく行き交っていく。
「…ううう。今日もお客さん来ないなぁ。何だか街も騒がしいし…」
マージンが灯台から見留めた白いトンガリ帽子こと、かの魔王バラモスより魔力を盗んだとされる由緒正しい魔女、その末裔にあたるバンリィは、稼ぎの少なさに頭を抱えていた。
各地に散る彼女ら姉妹、通称バシッ娘の商売は、通称のあらわす如くバシルーラで皆をふっ飛ばす事である。
ゲルト海峡名物のバンジージャンプなど比較にならないスリルを味わえるとして一世を風靡したものの、如何せんスリルが勝ち過ぎた。
一族の永きに渡る営業努力の末、海ポチャなどのウォーターハザードは避けられる仕様になっているとはいえ、行き先は広大なアストルティアの何処かという大博打。
太古の昔ならいざ知らず、大地の箱舟に、各地の馬車による交通網の発展した今となっては、週に数人、罰ゲームか何かでやってくるのみである。
偉大なるご先祖さまに知られたらさぞ哀しむだろうが、バシッ娘の稼ぎだけでは生活費に足らず、最近郵便配達のアルバイトも始めた。
夢と理想だけでご飯は食べられない。
そろそろ夕方のアルバイトの時間、肩を落とし、バイトの制服に着替える為、帰路に着こうとした時だった。
「何々!?」
ドン、ドンと連続で響く爆音と共に、灯台を挟んで北側の空に大輪の花が咲く。
「花火?今日なにかお祭りの日だったっけ?」
奴だ、北に居るぞ、引っ捕らえろ、などと物騒な事を叫び隣を通り過ぎ、灯台に入っていく3人組を見送りながらバンリィは首を傾げた。
「う~ん?…まいっか、祭りなら祭りで、臨時ボーナスでるかも」
道の混み合う際には、時給に色がつく。
晩のおかずを一品増やせるかもしれない。
ウキウキしながら歩き出した所で、天から声が響いた。
「そこの可愛いお嬢ちゃん!」
「えっ!?えっ?もしかして私!?」
戸惑うバンリィの目の前に男が舞い降り、砂埃をあげて着地した。
「そうとも!バシルーラ1丁お願いします!!」
声の主は灯台に引っ掛けたロープを支えに、北から南へ塔台の壁を走って素早く移動したマージンであった。
爆弾が散る際は必ず目視で確認する。
マージンのポリシーを熟知した二人ならば、アカックブレイブを巻き込んでレンドア北に向かうはず。
しかし花火であれば、こうして南からでも確認ができる。
その僅かな隙きをついた脱出作戦、のんびりしている時間は無い。
「えっホントに!?ありがとうございます!!ではこの事前承諾書にお目通しのうえサインを…」
バンリィはクリップボードに留めた一枚の紙を差し出す。
それは要約すれば、如何なる場所に降りようとも自己責任で何とかします、という、バシルーラの結果の責任の所在を明確にする為の書類だ。
「書く書く、書きますよっと…」
内容の確認もそこそこに、マージンは渡されたペンで署名を殴り書く。
「あれ?お客さん、前にもご利用頂いてます?」
「初めましてですよ?」
「ん~?お顔に見覚えがあるような?」
ふとバンリィの背後の柱を見れば、自身の手配書が貼られており、ブワッと脂汗が吹き出す。
「諸事情あって急いでてね!まきまきでお願い!5万ゴールド払うから!!」
「きゃ、お客さん太っ腹!気合い入れてふっ飛ばすね!」
「あ~いや、出来れば程々で…」
行きたいのは隣のオーグリード大陸、中でもグレンであって、巡り巡ってまたアズランなんてことは出来れば避けたい。
まあ、行き先を選ぶなど土台ムリな話ではあるのだが。
「じゃー飛ばしちゃうからね!行くよっ!」
バンリィがノリノリで両手杖を振り始めると、マージンの体は足元から漏れいでる青白い光に包まれる。
「…やられたっ!そんな手を使うとは!間に合うか!?」
灯台の扉を千切れんばかりの勢いで開け放ち、アカックブレイブ達がレンドア北へ引き返して来たのはまさにこの瞬間だった。
スーツ脚部に呪文を込めようとするフツキに、先程はマージンを救ったロケットパンチで吶喊をかけようとするフィズル。
「…プラシーバーシールルルンポゥ!世界の果てまで、ひとっとビュ~~~ン!!」
しかしバンリィが呪文を終える方が僅かに早い。
「うっひょああああああぁぁぁ………!!」
未体験の感覚に、マージンの口から思わず溢れた悲鳴がたなびく。
「くっ!」
バシルーラの軌跡は、その呪文の特性上、追跡が困難だ。
手足をばたつかせながら高速で彼方へ吹っ飛ぶマージンを、ただ睨むことしかできないアカックブレイブであった。
続く