と、その時突然、テントの布地を引き裂き、ガチャコッコが飛び込んでくる。
「何だ一体!?」
相手は堅い装甲に包まれたマシン系モンスター、丸腰ではどうにもならない。
状況を確認するためにもテントから飛び出すと、なぜ気付かなかったと自分を責めたいぐらいに混乱の様相を呈していた。
無数のガチャコッコ達が、他のテントにも襲い掛かり、人々の悲鳴が飛び交う。
中でも一際、群れを成す如く多くのガチャコッコが集まっているあたりへ、セ~クスィ~は猛然と駆けだした。
これまで日々筋トレと鍛練を欠かさなかったとはいえ、ちゃんとした戦闘の訓練を受けたわけでもない。
それでもモンスターに向かうセ~クスィ~を突き動かしていたのは、父の言葉だった。
『他の誰でもない。お前が誇れる、お前になれ』
自分が自分に誇れるセ~クスィ~は、ここで村人を見捨てたりはしないはずだ。
「うおおおおおおっ!」
手直にあったひのきの棒を引っ掴み、ガチャコッコに振り降ろす。
頭部を凹ませ、首がわりのスプリングを歪ませて、ガチャコッコ一体を撃ち落したが、同時にひのきの棒は折れて早くも使い物にならない。
しかし、視界の隅では、セ~クスィ~が時間を稼いでいるうちに、一人、また一人と、逃げのびていく村人の姿が見える。
これでいい。
モンスターを倒す必要などない。
村人が逃げる時間さえ稼げれば、こちらの勝ちだ。
「ぬぬぬ!」
セ~クスィ~は、ひのきの棒の残骸に見切りをつけて投げ捨てるとジャンプして、宙を舞っていたガチャコッコの脚を掴むと、そのままハンマー代わりに振り回す。
「これはいい!」
もう一匹もむんずと左手で捕まえて、両の手につかんだガチャコッコを武器にして猛然とガチャコッコの群れへと突っ込んでいくセ~クスィ~。
だがしかし、そんな付け焼刃が通用するのは、せいぜいがガチャコッコどまりである。
奥に構えていた異形、キラーマシンのサーベルの一振りで、あっけなくガチャコッコハンマーは真っ二つになり、断面から火花を噴きだす。
そのままボウガンと一体化した左腕で殴り飛ばされ、セ~クスィ~は砂の大地に転がった。
「くっ…あばらが折れたか…」
胸を突く激しい痛みに、逃げるどころか呼吸もままならない。
万事休すかと思われた時、駆け付けた影は、見覚えのある人物。
「…おきょうさん!?危ない!逃げて!!」
セ~クスィ~を守る様に立ち塞がったのは、昼間ドルブレイドを修理してくれたおきょうだった。
「ドルセリン!チャージ!!」
カキンと音を立て、おきょうはドルボードにではなく、自身に巻き付けていた金色のベルトにドルセリン管を突き立てる。
「魔装展開!」
おきょうの言葉に従う様に、ベルトから金色の光が溢れる。
キラーマシンもそのモノアイを思わず庇う程の強い光。
強烈でいて、どこか優しさを感じる光に一帯が満ちる。
「ダメっ、もう少し、安定して…っきゃああああっ!!!」
だが、唐突におきょうの悲鳴と共にベルトは爆発を起こし、その小さな体はセ~クスィ~同様、砂の大地に弾む。
しかしながら、そのおきょうが稼いだ時間が、セ~クスィ~にわずかながらの回復と、愛車のもとへ辿り着く余裕を与えた。
「これでも喰らえッ!!」
フルスロットルで矢の如く、満身創痍のセ~クスィ~が駆るドルブレイドがキラーマシンに突進する。
さしものキラーマシンも、これにはひとたまりもない。
そして、爆散するキラーマシンの装甲に、何故か見慣れたドルブレイドのドルセリン注入口と同じバルブがついているのを視界にとらえたあたりで、セ~クスィ~の意識は闇に呑まれるのであった。
続く