「おかげで退屈しなかった。達者でな」
道中、妙にセ~クスィ~に懐き、ここまで肩に乗せて歩いてきた小さなトカゲを荒野の休息所の草むらに離し、別れを告げる。
一度だけこちらを振り返ったのち、黄色い友人は影の中へ走り去った。
さすがはドルブレイドで一刻半の距離、そろそろあたりは日も暮れようとしている。
「さて…ここまで来てはみたものの…ん?」
セ~クスィ~は悪い事をしに来たわけではないのだが、目論見通りアラモンド鉱山の方から歩み寄るおきょうを見つけた時、とっさに物陰に隠れてしまった。
おきょうは昨晩見た時と同じ装束、そして、同じ金のベルトに、何やらアンテナのようなものが四方に飛び出した四角い謎の機械を、首から太い紐で吊り下げている。
「うんしょ…うんしょ…」
武骨な見た目通り、なかなかに重たいのだろう。
いちいち可愛さを振りまきながらも、しっかりとした足取りでおきょうは荒野の休息所の東、ひたすらに砂漠と廃墟の続く人気の無い地へ歩みを進める。
「…何だか悪い事をしている気分だ」
やあ、と声でもかければよかったか。
うっかり身を隠し、タイミングを逃した結果、もはやなかなか声をかけづらくなってしまったセ~クスィ~は、遮蔽物の無い荒野に苦労しつつも、ヒーローどころか不審者の如くこっそりとおきょうの後を追う。
そうこうしているうちに、すっかり星が輝く頃合いになり、おきょうはひときわ大きい瓦礫の残る廃墟群へと辿り着く。
「このあたりなら…」
おきょうは首に下げていた装置をおろし、ボタンをいくつか規則的に操作すると、ブゥゥゥンと空気を鈍く揺する様な音が辺りに響き渡る。
「一体何を…」
勿論、自分が機械に精通しているなどと自惚れるつもりはないが、おきょうの行動はセ~クスィ~にはサッパリ訳が分からない。
しかし、音が響けば響くほど、嫌な予感が増していく。
やはり、荒野の休息所で声をかけるべきだった。
後悔に背中を押されるようにおきょうに声をかけようとした瞬間、バサバサと機械的な羽ばたき音を響かせ、無数のガチャコッコがセ~クスィ~の頭上を通過する。
「これは!?」
その白いボディは、夜闇の中でも星の光を受けて良く目立つ。
セ~クスィ~が見上げた先では、渦を巻くが如く群れを成した大量のガチャコッコが円を描いて舞っていた。
そしてその中心に居るのはおきょうだ。
「あの機械で呼んでいるのか?何の為に?」
今の所、ガチャコッコ達は上空を旋回し続けるばかりだが、いつ昨晩の様に襲い来るか分かったものではない。
「おきょうさん!」
承知の上でやっているのだろうが、このままではおきょうの身が危ない。
そう感じたセ~クスィ~は、さんざめく金属の羽ばたきに負けじと大きく声を上げる。
「セ~クスィ~さん!?どうしてここに!?いえ、そんなことよりも、早く逃げて!!」
「あなたこそ!!」
大声でのやり取りに、ガチャコッコの数体がセ~クスィ~の存在に気付く。
「いけない…!制御が…」
雪崩を起こすようにセ~クスィ~の方へ向かうガチャコッコ達。
「今度こそ…。力を貸して、マクス…。ドルセリンチャージ!!魔装展開!!」
持ち込んだ誘導装置の電波強度を上げたものの、獲物を定めたガチャコッコの勢いは止まらない。
セ~クスィ~を救うには、これしかない。
友の名に願いを託し、おきょうは再びベルトを起動させた。
続く