「うそ…どうして…。成功した…?」
呆然とアカックブレイブの姿を見つめるおきょう。
「これは…」
原理などセ~クスィ~に分かるはずもないが、このスーツを身にまとった瞬間から、体の奥底からマグマの如く湧き上がるとてつもない力を感じる。
戸惑いをお構いなしに向かってくるガチャコッコなど、もはや脅威足り得ない。
何体も何体も立て続けに体当たりを繰り出すが、怯ませるどころか、突進したガチャコッコ達の方が、棒立ちのアカックブレイブに跳ね返される始末である。
「いける!これは凄いぞ!!」
父に学んだ正拳を繰り出すと、ビリヤードの完璧なブレイクショットの如く、打ち弾かれたガチャコッコを起点に数十体を巻き込み、爆発が起こる。
チョップを繰り出せばガチャコッコの鋼の装甲を容易く切り裂き、蹴り上げた個体は遥か彼方へ流れ星の如く吹っ飛んでいく。
「もう充分よ!早く魔装を解いて!」
瞬く間にガチャコッコの残骸がアカックブレイブの周りに積み上げられ、ようやく逃走に転じたガチャコッコの一団を追いかけようとしたところで、アカックブレイブはおきょうに呼び止められる。
「いやしかし…」
大半を蹴散らしたとはいえ、残るガチャコッコも決して少ない数ではないのだ。
このまま破れかぶれに荒野の休憩所や、再び集落を襲う可能性も否定できない。
おきょうの制止を振り切ろうとしたアカックブレイブだが、彼女の顔を見て固まってしまう。
「お願いだから、早く…」
じっと、怒りとも哀しみともつかない表情を浮かべアカックブレイブを見つめるおきょうの瞳には、大粒の涙が浮かんでいた。
おきょうの様相にたじろいだアカックブレイブの心情を悟ってか、輝きを放ち続けていたベルトが光を失い、同時にセ~クスィ~を包んでいたスーツも夢幻であったかのように消え果てる。
役目を終え、ボトリと地に落ちたベルトを、とぼとぼと歩み寄ったおきょうが拾い上げる。
おきょうの涙の意味を知らないセ~クスィ~は、その間、ただただその場に立ち尽くしていた。
「…体に、おかしい所はない?痛みや、疼くような痒み、筋肉が過剰に膨らんでいるとか…」
セ~クスィ~に背を向けたまま、ベルトを握ったおきょうは淡々と尋ねる。
「いや、特には感じない。大丈夫だ」
「良かった…」
ほんの短い言葉ながら、そのまま魂が抜けてしまうのではないかと思えるほどに、おきょうの言葉には重い感情が込められていた。
その意味もまた、セ~クスィ~には何もわからない。
「ここまで巻き込んでしまったからには、あなたには全てを話すわ。ただ、私も心の整理をしたいの。そうね…お昼を過ぎたら、荒野の休憩所で会いましょう」セ~クスィ~の返事を待たず、やはり寂しげな足取りでおきょうは来た道を引き返していく。
かける言葉を見つけられず、セ~クスィ~は次第に遠ざかる小さな背中を、じっと見つめる事しかできないのだった。
続く