アカックブレイブに恐れをなして、荒野に飛び去るガチャコッコの群れ。
おもむろに現れた巨影はその巨木の様な腕を伸ばし、手近な数体をまとめて鷲掴んだ。
月に照らし出されたゴリラの様な歪なシルエットは、ジタバタともがくガチャコッコ達を自らの拳ごと地に打ち付け黙らせると、がばりと大口を開ける。
その邪悪な姿に相応しい、禍々しい不揃いの牙でバリバリとガチャコッコの装甲を喰い破ると、ガチャコッコの残骸を天に衝き上げ、断面から滴るドルセリンを浴びる様に貪った。
闇夜さえ震え上がるようなおぞましい怪物は赤い表皮に覆われ、その腰には、内からあふれるように盛り上がった筋肉に捻じ曲げられながらも、アカックブレイブと同じ金色のベルトが鈍い光を放っているのであった。
すぐにはおきょうの後に続けず、ようやく陽が頭を出したあたりで、セ~クスィ~は荒野の休息所まで、重い足取りで戻った。
とりあえず座り込むように入った荒野の休息所の喫茶室。
目覚まし代わりにブラックコーヒーを注文したはずなのだが、何故かカップを飛び出るソフトクリームの山脈を頂くコーヒーカップに目を白黒してしまう。
しかし、おきょうの涙の理由という解けない謎に思い悩むセ~クスィ~の頭には逆にちょうど良かった。
ちびちびとコーヒーとその名を偽装した糖分を補給しつつ、モーニングセットでついてきた小倉餡をたっぷりのせたカリカリの分厚いトーストを頬張ると、殺人的な甘さでもってしてようやく思考停止寸前の脳ミソにエンジンがかかる。
「あのモンスター達はそもそも何なんだ…」
一昨日の夜に集落を襲ったガチャコッコとキラーマシン。
彼らにドルセリンの注入口が付いていた様な気がしたのは、昨晩のガチャコッコにも同一の特徴があった為、錯覚ではなかった。
実際にアカックブレイブに転じてガチャコッコを打ち破った際、散々嗅ぎ慣れたドルセリンの化学臭に、独特な色合いの液体が噴き出した事からも間違いない。
これまでマシン系モンスターがドルセリンで動いているなど聞いたことが無いし、勿論相対した事も初めてだ。
人為的に改造を施されている?
そして、おきょうはそれらを引き寄せる装置を操っていた。
しかし、集落を襲ったのがもちろんおきょうであるはずが無い。
短い時間ではあるが、彼女の人となりと、何よりあの夜、彼女自身もモンスターのターゲットとなっていたのはセ~クスィ~がその目で見ている。
むしろ、あのベルトでモンスター達を何とかしようとしていた側だ。
そう、大きな謎のもう一つがあのベルト。
セ~クスィ~はナップザックに手を差し入れ、アカブレイバーの絵本に触れる。
勢いに飲まれて、咄嗟に随分と勝手な事を叫んでしまった。
「アカックブレイブって何だ一体…ああ、恥ずかしい…」
思い出して頬が火照った気がして、慌てて両手で覆う。
気がつけば随分と長時間考え込んでいたらしく、すっかり冷え切った掌が心地良い。
そしてそんな恥ずかしさよりも、だ。
何故だかは分からないがおきょうに使えなかったベルトを、セ~クスィ~が発動させた事がおきょうを涙させたのだろうか?
いや、そんな器の小さい人ではない。
一時の別れの際、その最後まで彼女はセ~クスィ~の身を案じてくれていた。
「もしかして何か副作用が…?」
セ~クスィ~は口にして自分でも少し背筋が寒くなった。
アカックブレイブに変身している間、不思議な高揚感と、明らかに自分の限界を超えたパワーを手に入れていた。
見た所、自分の身体におかしな様子は見受けられないが、内臓やら何やら、外観では判らない異常などいくらでも考えられる。
もしかしてこの吐きそうなほど甘いコーヒーも、実は普通の味だったりして…。
くだらない方向に思考が向き始めたのを感じて、セ~クスィ~は思い悩むのを切り上げた。
全ての謎はこの後、おきょう本人が詳らかにしてくれる筈だ。
そうしてすぐ隣の、閉鎖されているはずのアラモンド鉱山に向かう道程は、酷く長いものに感じられたのだった。
続く