「くっ…う。この脳筋ゴリラめ!!」
そして、身構えた衝撃の代わりにおきょうの耳に飛び込んできたのは、セ~クスィ~の声だった。
セ~クスィ~は腰だめに地にしっかりと足を付け、おきょうの発明の一つ、ライトバリアでマクスの拳を受け止めていた。
セ~クスィ~が飛び降りたため、操縦者を失った真紅のドルブレイドがふらふらと数メートル進んだ後、転倒する。
渾身の一撃を何とか受け止めたものの、道すがらおきょうの研究室から勝手に拝借したライトバリアは発生装置基部から火花を放ち始め、慌ててセ~クスィ~が投げ捨てると同時に爆砕してしまう。
「セ~クスィ~さん!?どうして…それにあなた、また…」
思いもかけず現れたセ~クスィ~に驚くよりも、その腰に巻かれたベルトにおきょうの意識は向く。
「ああ、ベルトなんだが、すまない、保管ケースの開け方が分からなくて、その場にあったハンマーでケースは壊させてもらった」
セ~クスィ~は、どんなもんだ、と言わんばかりに、これまた勝手に拝借したおきょうの工作用のはがねのかなづちをブンブンと振って見せる。
「いや、そうじゃなくて…言ったでしょう?関わるなって」
「ああ、言われた!」
セ~クスィ~は再びの拒絶の言葉に対し、おきょうが目を白黒させるほどあっけらかんと言ってのける。
「…それからずっと、あなたに言うべき言葉を考えていた。ようやく思いついたから、それを伝えに来たんだ」
そうこうと会話しているうちに、ライトバリアに弾かれてよろけていたマクスが体勢を整える。
強大な魔獣の姿に、背筋が震えるほどの恐怖を感じながらも、おきょうに背を向けマクスを睨み付け、セ~クスィ~は大声を張り上げた。
「あなたのこのベルトは!呪いなんかじゃない!!これは、まだ見ぬ誰かの、そして今は、あなたの涙を止める力だ!」
啖呵を切って、ドルセリン管を天高く構える。
「ドルセリンチャージ!!魔装、展開ッ!!!」
躊躇いもなくドルセリン管を勢いよくベルトに叩き付けると、セ~クスィ~は高らかに叫んだ。
「正義を照らす情熱の炎!!アカックブレイブ、見参!!!」
アカックブレイブは敵を前に名乗りを終えると、悠然と敵の巨躯へと向かう。
「ダメよセ~クスィ~さん!ベルトの基本性能が違いすぎる!」
おきょうの制止が聞こえなかったわけではない。
しっかりとそれを耳に噛みしめ、それでもなおアカックブレイブは突き進んだ。
「やぁ先輩、初めましてとでも、言うべきかなっ!」「ウゴァ…!?」
「うそ…拮抗してる?スペックは全然及ばないはずなのに…」
限界まで活性化した古の魔獣の筋細胞、その人知を超えた暴力を前に、ほんのわずかな増強作用しかないスーツで、がっしりと両手を組合い、アカックブレイブは一歩も退くことなく押し合っている。
技術者としておよそ信じられない光景を前にし、おきょうは在りし日のマクスとのやり取りを思い出していた。
それは、マクスがおきょうのベルトを初めて装着した日の事。
「お~、凄いな!やっぱり赤だよ。こうでなくっちゃ。まるでアカブレイバーだ!」
マクスは、自身の注文で赤く染め上げられてこそいるが、まだ装飾も何もなく、ただの全身赤タイツ男にしか見えない自分の姿を鏡で眺め、しかし満足げにほほ笑んだ。
「あかぶれ…何?」
おきょうはこれまで全く耳にした事の無い単語に首を傾げる。
「アカブレイバー。まぁ知らないか。オレの大好きなヒーローの名前」
マクスはファイティングポーズやらマッスルポーズやら、プクリポゆえに誤差という程の違いしかないながらも様々なポーズをとる。
「…もしかしてそんな理由で赤にしてくれって?しかもあんなに拘って?」
スーツの色に関して、実に7回にも及ぶリテイク要求を受けていたおきょうは、マクスをじと目で睨み付ける。
「悪かったって。でもさ、大事な事なんだぜ?」
「大事な事?色が?」
「違う違う。勇気、だよ」
「ふぅ…ん?」
「オレ達はどうしても数値で物事を考えがちだけどさ。こういうのは、スペックじゃないんだよ。心っていうか、気持ちっていうか…。誰かを救いたいって想い、強い勇気は、どんな技術にだって勝るんだ。この赤は、それを強く思い起こしてくれる」
「…そういうものなの?」
「そういうものなの!!」
強く言い切って、マクスはにっこりとほほ笑んだ。
「うおおおおおおおおおおおお!!!」
アカックブレイブは依然として自身の身の丈を上回るマクスを押し留めている。
「セ~クスィ~さんの…心の力…」
かつての友の言葉を、今まさにセ~クスィ~が体現していた。
続く