そのあまりの巨体に、入り江の水面を突き破って山ができたかと思うほど。
「今日はたこ焼き…アヒージョも有りかな…」
当り前と言えば当たり前だが、マスターの料理の腕前はなかなかのものだ。
喰えそうな獲物の場合、報酬の一部と引き換えに、いつもマスターにお任せで、狩猟の証として残さないといけない部位以外を調理してもらっている。
目の前の巨大なタコメットを前に、キャトルが舌なめずりをした次の瞬間、タコメットの眉間を中心に6本の太刀筋が交差した。
「…おいおい、随分と手の早いこって」
大勢で分けるピザの様に背後から切り刻まれ、均等にカットされたタコメットがバラバラと崩れた。
そしてその残骸を踏みしめるように、一体の赤茶けた骸骨がこちらへと歩み寄ってくる。
3対6本の腕それぞれにサーベルを構え、動きを妨げない程度に、老朽化し錆を伴った灰色の鎧に身を包んだ死霊系モンスター。
例によってキャトルには初めて見る魔物である。
キャトルは、はしりとかげの臓物にまみれたあの日から、数えきれないほど、望まずともジュエと狩りをともにした当然の帰結として、彼女の武器に関してもそのおおよそを把握している。
どんなカラクリかまでは知る由もないが、ジュエの持つスケッチブック、そのページを破り取る事で、そこに描かれたモンスターが具現化し、ジュエの指示に従い攻撃を行う。
ジュエの言葉によると、それら絵画によって顕現させたモンスターは、ドロウモンスターと呼ぶらしい。
威力もさることながら単純にジュエのお気に入りらしく、かなりの高頻度でお目にかかるのはばくだんいわであったが、ジュエの絵画はバラエティに富み、こうして知識に無い魔物を見るのも、驚くことではなくなった。
「気を抜くな坊や!」
「…あん?っとぉ!!?」
ガギィンと音を立て、右の最上腕から繰り出されたサーベルの一撃を、首を刎ねられる寸前の所で、抜きの速さに特化したジャンビーヤで受け止めたキャトル。
そのまま力任せにいなし、死霊系モンスターこと、じこくのきしから距離をとるとジュエに向かって吠えた。
「てめえ、耄碌してんのか!?」
「コイツを出したのはあたしじゃない!!」
「見え透いた嘘つくんじゃねぇよ!」
見た事が無い魔物であること、突然現れた事、加えて、こうして目の前に対峙してなお、気配を欠片も感じない事、そして最後に、影が無いこと。
これまでジュエと共に狩りをして目にしてきたジュエの御業によるドロウモンスターに、すべての特徴が合致する。
「あいつが…あいつが近くにいる…。そいつの相手は任せたぞ!!」
何やらぶつぶつ呟くと、駆け出して行ってしまうジュエ。
「あっ、おい!くそっ!!」
つい疑いはしたが、ジュエが自分を襲う理由がそもそも考え付かない。
とにかく今は、目の前の敵を片付けることが先決だ。
ジュエの発した『あいつ』という言葉が気になりつつも、ナイフをしかと握り直すキャトルであった。
続く