その大きい身体が、彼の誇りだった。
ウェナ諸島はミューズ海岸の桟橋付近の集積場。
容赦無く降り注ぐ真夏の日差しを意に介さず、独特な薄い土気色のゴーレムが、木箱を軽々と運んでいる。
「ゴレムス、その木箱はあっちに。あ、それはここ、うん、そそ、慎重にね」
指ぬきグローブから飛び出た、ドワーフの特徴的な丸っこい指が、言葉と共に、実に的確にゴーレムへと指示を飛ばす。
胸当てと首当てのみというシンプルな上半身の装いに、収納を重視して適切な位置に複数ポシェットを据え付けた技師向けの短パン、そして踏破に優れたウェスタンブーツ。
無骨で男勝りな服装に、銀のブローチをあしらった真紅のターバンが華を添える。
「よっし、それをそこ、そんで完了」
「ゴ…!」
ゆっくりと最後の積荷を地におろすと、ゴレムスは主たるドワーフの少女にビッとサムズアップしてみせる。
「今日もありがとね!」
駆け寄った少女は、本当は相棒の頭を撫でてあげたいところなのだが、その小さな背丈ではとても届くはずもなく、妥協していつもの如く石造りのふとももをポンポンと軽く叩いた。
「さてと。…で?そこでこそこそ何しとん?」
少女は仕事が片付いた所で、ゴレムスに向けていた視線とうって変わり、岩陰からこっそり様子をうかがっている二人を冷たく睨めつけながら声をかけた。
「よっ、これはウィンの姐御にゴレムス。そっか、今日はここで働いてたのね~」
口笛を吹くように口を尖らせ、明後日の方向に視線を向けて、白々しさの極みに至りながら姿を見せたのは、少女のチームメイトでもあるウェディの青年、ミサーク。
「ゴレムス!久しぶり!!」
一方、同じくチームメイトであるプクリポの少年、ごましおは千切れんばかりに尻尾を振り、ゴレムスの脛に抱き着いた。
「何度頼み込まれてもゴレムスは貸さないよ?」
ウィンの姐御、ことウィンクルムであるが、実際はミサークよりも遥かに若い。
しかし歳に見合わぬ破天荒な過去、その豊富な人生経験と、面倒見の良さから、傍から見ても姐御と呼ばれても妙に様になっていた。
「あ、いや、それはそれとして」
ミサークは古代ドワチャッカ史を専攻する歴史大好き男子でもあった。
その彼が、目からヨダレを垂らしそうな熱視線を度々ゴレムスに向けているのはチームメンバーのみならず、近隣の住民全員が周知する所である。
その昔、ガタラ原野の遺跡にて、ウィンクルムが拾った、なんの変哲もない丸っこい石。
チームアジトへの帰路、モンスターに襲われているパーティに遭遇したウィンクルムが、モンスターの気を逸らす為にその石を放った所、突如として光を放った石を中心に、遺跡の構造物を巻き上げ、突如組み上がったゴーレム、それがゴレムスであった。
ミサークの私見ではあるが、ゴレムスは遥かな昔、ガテリア王国時代に僅か数機開発されたとされ、今は文献のみに姿を残す『携帯用ゴーレム』ではないかと目され、ことあるごとにミサークの執拗なアプローチを受けていた。
「姐御、一生のお願い!」
しかし本日、用があるのはゴレムスではない。
ミサークはありがたい神仏を目の前にしたかの如く、ウィンクルムに向かい手を合わせ頭を下げた。
「アンタ、既に何回転生しなきゃいけないか数えてる?」
「ど~しても一週間以内に造らないといけないものがあるんですぅ!」
腰の低さに呆れるウィンクルムの前で、ミサークはさらに五体投地で頼み込む。
「はぁ…。相変わらずあんたらは行きあたりばったりというか、考えなしというか…。いつかホント痛い目みるよ?毎回毎回アタシに助けてもらえると思ったら大間違いなんだからね?」
悪態をつきつつ、結局助けてくれる所も姐御たるゆえんのひとつである。
「えへへ」
そんなウィンクルムの言葉に、何故かうなじをかき、頬を赤らめるごましお。
「ごま、俺たち今、何一つとして褒められてないからな?」
勘違いを正しつつ、懐から図面を取り出すミサークであった。
続く