「ゴ…?」
メモリの破損が原因で、最期の起動からどれぐらい時が経ったのか、まったくわからない。
スリープモードに入った当時の記憶も不鮮明なままに、近辺の土塊で次第に構築されていく発声機関で疑問符を漏らす。
そして疑問も解けぬうち、後にゴレムスと名付けられることとなるゴーレムは、ぶん投げられて風を切る衝撃で悠久の刻を経て蘇り、混乱するままにアイアンクックとマジカルハットの群れにヘッドスライディングする羽目になった。
「凄い!アンタ、強いんだねぇ!!大きくてカッコいいねぇ!!!」
像を結んだばかりの頭を強かにアイアンクックに打ち付け、火花散り朦朧とする視界。
実に数千年ぶりに捉えた最初の光景は、快活なドワーフの少女の、華のような笑顔だった。
そして少女は、無様に遺跡に這いつくばるゴレムスの頭を、優しく撫でた。
その笑顔の眩しさのあまりに、ゴレムスはその少女、ウィンクルムについていくと決めたのだ。
あの出会いの日のメモリーを、ゴレムスは数年を経た今でも、繰り返し夢に見る。
「で?とりあえず話だけ聞こうじゃないか、ミサーク」
行儀良く体育座りで想い出に耽っていたゴレムスの前では、ウィンクルムが大きな木箱の上にドカッと乱暴に腰掛け、ミサークから差し出された図面を受け取ったところだ。
「そう言ってくれると思ってましたよウィンちゃん!」
手をニギニギしながらミサークが説明に入る。
ジュレットの子供達向けにひらかれる夏祭り。
どうやらその出し物として、屋台を設けるのだが、そのための設備が足りないらしい。
「なるほどね。…おおかた、最初は比較的手っ取り早い焼きそばあたりでお茶を濁すつもりだったんだろ?」
「ギクッ」
ミサークはウィンクルムの鋭い指摘に思わず左胸をおさえる。
「で、ごまやちびっ子たちの前で良いカッコしようとメニューの変更を企てて…」
「ギクギクッ…」
尚も続く容赦ない推察に、ミサークの膝がガクガクし始めた。
「あらためて選んだのがピザ。そして石窯が無いって所か」
「ギックゥッ!」
「むふー、オレ、ピザ好っき~!」
名探偵ウィンクルムの推理が、ミサークの心臓に会心の一撃となっている横で、無邪気な笑顔を浮かべるごましお。
つまるところ、ミサークもウィンクルムも、その笑顔に弱いのだ。
それはゴレムスとて同じ。
ごましおが喜べば、ウィンクルムもきっと笑顔になる。
もしかしたら、またあの日のように、頭を撫でてもらえるかもしれない。
「う~む…何とかしてあげたいけど、石窯に使えるような耐火レンガなんて、すぐには手に入らんぞ…」
「そこを何とかウィンちゃんの人脈とか、隠し財宝とか、諸々で何とかなりません?」
「…アタシを何だと思ってるんだぃ全く。う~ん…困ったねぇ」
頭を悩ませる一同。
「ゴ…!!」
そんな中、若干の邪な動機もありながら、状況を打開すべく、力強く手を挙げたゴレムスであった。
続く