「ゴ…ゴ。ゴ~」
「なるほどねぇ」
「ゴゴ!」
「よっし!決まりだね!」
「…ごま、ゴレムスがなんて言ってるかわかるか?」
「さっぱりわからんちん」
「だよなぁ」
そこは絆のみせる技、抑揚こそあれ、ただの唸り声からゴレムスの意図するところを汲み取ることは、ウィンクルムにしかできない。
「時間がない、とっとと行くよ!アンタたち!」
「えっと、何処へ?」
「ゴレムスの話聞いてなかったの!?ウルベア地下遺跡!さ、まずは駅まで走るよ!」
ゴーレム語を理解しろとは、ウィンクルムも無茶をおっしゃる。
そんな文句は勿論飲み込んで、ウィンクルムとゴレムスのあとに続くミサークとごましおであった。
「いやアンタ、今回はお留守番だよ?」
「ゴ!?」
辿り着いたジュレットの駅で、ショックを受け項垂れるゴレムス。
「まあ、流石に大地の箱舟には乗れんわな。サイズ的に」
助けを求めてミサークを見やるゴレムスであったが、残念ながらフォローはない。
「ゴレムス、本当はアタシも連れてってあげたいけど、アンタ箱舟の扉通れないし」
「ゴゴ!?ゴ~…」
大きい体は誇りだが、ウィンクルムについて回るにあたり、誇りが仇となって、今回のように哀しい目に会うことも多々あった。
「ゴゴ、ゴ」
駄目もとで現在の躯体の一時解除をコアのメインシステムに打診するゴレムス。
(ネガティブ。分離構築システムに致命的なエラー。現在躯体の解除を行えば、再構成不可)
ゴレムスの頭脳回路内に、システムからの無慈悲な回答がかえる。
流石のウィンクルムも知る由もないが、ゴレムスは経年劣化に因るところか、あちこちに問題を抱えていた。
本来であれば、今回のようなケースでも、持ち運びが容易な拳大のコアだけになり、岳都ガタラにて躯体を再構築すれば済む話であり、それが本来のゴレムスこと『携帯用ゴーレム』のコンセプトに合致する所である。
(本機の最優先事項は、一刻でも永く現在の主、個体名『ウィンクルム』と共にあることである。よって、疑似人格ゴレムスを失う可能性の高いオプションは承認できない)
ゴレムスは繰り返し告げられるメインシステムからの回答に、あらためて項垂れる。
「じゃ、留守番頼んだよ!」
「ゴ~…」
手を振り3人を見送るゴレムス。
アストルティアの民は、哀しいときその瞳から体液を流し、感情を表現するという。
閉じられた駅の扉に背を向け、チームアジトへと歩みを進めながら、涙を流す機能を追加できないか、メインシステムに打診を行うゴレムスであった。
「アレがそうか。確かに珍しい色をしているな」
「そうでやしょう?兄貴」
ウィンクルムが着けてあげたブローチや、特徴的な石色もあり、ジュレットの住民達はもはや見馴れて、通りを一人歩いていても何ら見向きもされないゴレムスであったが、今日は珍しく、民家の影からねばちょっこい視線を送る二人組が居た。
「しかし、アレを捕まえるとなると、こちらも丸腰とはいかんな」
「そうでやすねぇ。オルフェアでも妙な緑色のちっこいのに邪魔されちまいましたし…」
「バカ野郎!過去の失敗を蒸し返すんじゃねぇ、あ~、腹が立ってきた!」
「あ、兄貴、ヘッドロックは勘弁でやんす~…!!」怪しい二人組は、そのままヴァース大山林の方角へ、姿を消したのであった。
一方その頃。
「そういえば、ゴレムスを連れて帰るときは、船使ったんだったっけか」
大地の箱舟、その四人席に陣取り、一同はミサークの奢りでシウマイ弁当をつついている。
「そうそう、何処だったっけかな~?ル、ル、ええと…」
「ルシナ村?」
「そうそれ!ルシナ村へ向かうっていうエスコーダ商会さんの船に、運良く便乗させてもらえてねぇ。クルーがゾンビやガイコツばっかりだったのはビックリだったけど、明るくて気のいい連中だったよ!」
短くも濃密だった舟旅の日々を思い出しながら、まだ湯気の立つシウマイを頬張る。
ニンニクと生姜をブレンドされてはいるものの、あくまで肉の臭み消しのため。
ただひたすらにシンプルで強烈な肉の旨味と肉汁が、口の中で激しく暴れ回る。
その猛威を添えられた白米が優しくなだめすかし、極上のハーモニーを奏でた。
「ええ~っ、明るいゾンビって想像つかないや」
「俺もちょっとそんな船はノーサンキューだな」
他愛のない話に華を咲かせ、弁当に舌鼓を打つうちに、目指すガタラはすぐそこに迫っていた。
続く