「なるほど…!これはいいモノだ!!」
「そりゃあそうさ、アタシの可愛いゴレムスの体と同じ材質なんだからね」
ウルベア地下遺跡に潜り、一直線に向かった場所。
そこはまさしく、ゴレムスとウィンクルムが初めて出会った場所だった。
石窯には強度は勿論、灼熱、蓄熱性など、実に様々な要素が求められる。
ミサークが困り果てていたのもそこだった。
ただの煉瓦ならいくらでも手に入るのだが、こと石窯に適したものとなると、そうは簡単に済まなかったのだ。
あたりに散らばる大量のブロックの一つを手に取り、扉をノックする如く指で叩くと、カンカンと小気味良い音が返る。
「ん~っ、この音。完璧だ」
ここまで最適な石材にはお目にかかったことがない。石窯に適しているだけでなく、ゴレムスによればこの石材は古の昔、休眠に入る直前のゴレムスの躯体を構成していた物だという。
ミサークは目に入れても痛くないと思えるほどのお宝に、うっとりした表情で頬擦りした。
「懐かしいなぁ。この山の中から、ゴレムスのコアを見つけたんだよね」
「なんと!?ごま、あたりに丸い石はないか!?絶対に見逃すなよ!!」
何はともあれ、石窯を作るため、散乱するブロックを全て回収した一同。
ミサークにとっては残念ながらもう一つコアが見つかるなんて事はなかったものの、各々風呂敷一杯に詰め込んだ石材を手に、ジュレットへの帰路に着いたのだった。
「順調なようだね」
それから一週間。
エゼソル峡谷の塩を含んだ土壌を繋ぎに完成した石窯が、フル稼働でピザを焼いている。
「ウィンちゃん!ついでに食べてっとくれよ!」
労働と石窯の熱気による健全な眩しい汗に顔を輝かせながら、すっかりコック帽の似合うミサークが笑顔をみせる。
「いやいいよ、昼飯は済ませちまっててね」
ジュレットの街はさながら街全体が立食パーティの会場となったが如く、あちこちに店が並び、ミサークのピザにも心惹かれたが、暇な時に遊んであげている街のちびっ子達が親と営む出店で、既に焼きそばを食してしまっていた。
ぶつ切りのタコや帆立、イカがワイルドに混ざりあった塩焼きそばは、子供がかき混ぜることによるたどたどしさが逆に程よくそばに御焦げを作り、その香ばしさがニンニクの旨味とマッチしてなかなかに美味だった。
「そっか~、残念…」
「仕事が終わったらまた寄るよ。残ってたらそん時頂くわ」
「了解!」
「お仕事頑張ってねぇ!」
ウィンクルムと会話しながらも矢継ぎ早にピザ生地にトッピングを施しているミサークの横で、ウィンクルムにエールを送るごましお。
満面の笑みを浮かべるその手には、モッツァレラチーズと厚めの短冊切りに仕上げたパンチェッタが散らばり、背骨のごとく鎮座するオイル漬のドライトマトがアクセントとなったミサーク特製のピザがチーズの糸を引いている。
「チーズ零すなよ~、ごま。じゃあまたねぇ」
あんまり長居すると、胃袋のキャパシティを無視して詰め込んでしまいそうだ。
しかしそれは礼儀に反する。
ちゃんと迎え入れる準備が万端の状態で食さねば、失礼というものだ。
後ろ髪を引かれながらも、ゴレムスの待つ集積場を目指すウィンクルムであった。
「…というわけでねぇ、大成功みたいだよ。ありがとうね、ゴレムス!」
「ゴ!!」
今日も今日とて積荷の整理。
提案した石窯造りはうまくいったらしく、上機嫌なウィンクルムの様子にゴレムスも心が弾む。
加えてご褒美に頭でも撫でて貰えれば尚良いのだが、彼我の身長差を考えれば難しいだろう。
あの日のようにゴレムスが寝そべりでもすれば、ウィンクルムにも届くのだろうが、それは些か格好が悪い。
ウィンクルムの褒めてくれた、強くカッコいい自分であらねばならないのだ。
この時ばかりは、大きな体を疎ましく思うこともある。
そうこうしているうちに日も傾き、積荷の移動も片が付いた。
「さて、そろそろ帰ろっか」
「ゴ」
「ピザ残ってるかな~。まぁでも、別に石窯あるんだから、またいつでも作ってもらえるか」
そのあまりの重量ゆえに、ゴレムスに運んでもらう前提だが、石窯は移動可能な作りになっている。
夕方にミサークのところへ顔を出すのは、その為でもあるのだ。
「ちょ~っと待ってもらおうか!!」
「待つでやんす!!」
「あん?」
「ゴ?」
ウィンクルム達を遮るように、数日前にゴレムスを見つめていた怪しい二人組が立ち塞がったのは、まさにその時であった。
続く