「へへへ、その珍しいゴーレムを…を…をぉっ!?」
ゴレムスを指差し、啖呵を切ろうとした男は、ウィンクルムの顔を見るなり素っ頓狂な声を上げ、目を見開いてフリーズする。
「いったい何だい?友達が街で待ってんだ。用が無いなら、とっととどきなっ!」
「て、てめぇはまさか、ウィンクルムか!?」
「…何でアタシの名を知ってんのさ。率直に言ってキモい」
「ぐふっ…!」
「あ、兄貴!気をしっかり!!」
兄貴と呼ばれた男は、ウィンクルムの容赦ない言葉のナイフに心抉られ跪く。
「…てめぇ、忘れたとは言わせねぇぞ。お前のせいで、お前のせいで俺たちはなぁ…」
蹲りながらも、ウィンクルムを睨み付ける恨みの籠もった目線だけは逸らさない。
「兄貴、ウィンクルムって、もしかして」
そして、弟分もその名を聞いて思い至る。
「ああそうだ、俺たちのヤサが、アグラニの自警団に潰される原因を作った女…!」
「こいつが…!」
「あ〜…」
アグラニの自警団と聞いてようやく、ウィンクルムも状況を飲み込み、苦虫を噛み潰したように眉間にシワを寄せた。
「お前のせいで、盗賊団は一網打尽、今でも兄弟分達は不味い飯を食ってるんだぞ!俺達だって、魔物の違法取引で糊口を凌ぐ日々…。ここで会ったが百年目だ!」
兄貴分は恨みの力で意気揚々、力強く立ち上がる。
「知ったこっちゃないね!そもそも、ヘタうった時に、アタシを身代りにしてトンズラここうとしたのがいけないんだろ!?トカゲの尻尾切りのつもりが、切り落とした尻尾に首絞められちまって、ザマァ無いね!」
孤児だった幼い頃。
生きる為にやむを得ず、ウィンクルムはアグラニにアジトを構えるチンケな犯罪組織にその身を置いていた。
しかしある時、先の言葉のとおり、逃げ出す為のダシに使われそうになったウィンクルムは、盗賊団の情報と引き換えに自警団と取引を行った。
そしてその庇護のもと、足を洗ってそれ以降は真っ当な人生を歩んできたのだ。
「あの時に捕まりもせず、アタシが顔も覚えてないってことは、どうせアンタらも下っ端だったんだろ。さっきも言ったが
今日は生憎と忙しい。見逃してやるから、とっとと失せな!!」
ウィンクルムは、急いでいるのも彼らの顔に見覚えがないのも事実だが、何よりも、自身の忌むべき過去と早くおさらばしたかった。
「…もうゴーレムなんてどうでもいい。この恨み晴らさでおくべきか。やっちまえ!」
男がじゃらりと手にした鎖を引くと、岩陰からぬらりと巨大な影が姿を見せる。
「トロル!?何でこんなところに!?」
「ふっふっふ、ゴーレムを相手するのに丸腰で来る馬鹿が居るかよ。やっちまえ!!」
「ヴァース大山林直送、イキのいいピチピチのトロルでやんすよ!」
ピチピチと言うよりは涎でビチャビチャだが、そんな些末な事を気にしている場合ではない。
何か薬でも使われているのか、首輪が嵌められ、焦点の定まらない目をしたトロルは、兄貴分に言われるがまま、トゲだらけの棍棒を手にウィンクルムに迫るのだった。