「ゴ!!!」
ゴレムスはすかさず間に入り、振り下ろされる棍棒、それを持つトロルの右の手首をガシリとつかみ抑える。
ゴレムスの巨軀をして、トロルのサイズは互角、互いに空いている手を組み合い、押しつ押されつの拮抗状態が続く。
「ゴレムス、頑張って!」
「ゴゴ!」
手をメガホン代わりに構えたウィンクルムの応援に、ゴレムスが勢いづいてトロルを押し返したその時。
「えっ、うそ!?きゃああッ!」
完全に虚を突き、ウィンクルムの背後から忍び寄ったもう一匹のトロルによって、ウィンクルムの小さな体が掴み上げられる。
「へっへっへ~、抜かりはないでやんすよ!」
したり顔の弟分。
「ゴゴ!?ゴ…ゴ」
ゴレムスはウィンクルムのもとへ駆け寄ろうとしようにも、眼前のトロルがそれを許さない。
「ゴ…!」
ゴレムスは事態を打開すべく、メインシステムに分離攻撃オプションの使用を申請する。
(ネガティブ。分離再構築システムに致命的なエラー。よって、分離再構築を伴う全体攻撃は、自己保存の観点から承認できない。現行の形態にて対処すべし)
しかしてやはり、箱舟に乗ろうとした際と同様、メインシステムからは冷たい返答が返るのみである。
「こんにゃろ!!クソッ!離せ!は〜な〜せ〜っ!」
「クックッ、良いザマだぜ」
「そうでやんすねぇ兄貴!ひひひっ」
背後のウィンクルムの様子が見えない故に、さらにゴレムスの焦りが増す。
それは致命的な緩みとなり、拘束の解けたトロルの右腕が、不安定な姿勢からなれど、強かにゴレムスの頭部を棍棒で殴打し、ゴレムスは石片を散らしながら膝をつく。
「ゴレムス!?アタシに構わず逃げて!!」
「…ゴ…」
頭部を激しく打たれた衝撃と、ウィンクルムの悲痛な叫びが、ゴレムスのメモリーを呼び起こす。
遥かな昔。
それは、ゴレムスが長い眠りにつく直前。
今と同じように、当時のゴレムスの主は、あろうことか下僕であるゴレムスを庇い、魔物の牙を受け命を落とした。
取り戻した記憶の中の、彼女の華のような笑顔が、初めて出会った時のウィンクルムの笑顔と重なる。
「ゴゴ!」
もう二度と、目の前で主を失うのは、まっぴらごめんだ。
ゴレムスは再度、己の存在意義を込めて攻撃コマンドを申請する。
(申請を承認。我、並びに、疑似人格ゴレムスの存在意義は、主と共に在ることである。よって、主の命は自己保存の理よりも優先される。しかし…主と攻撃対象が近すぎる。コントロールに演算を裂いた場合…エラーの影響も加わり、再度結合できる可能性は0パーセントである。それでも…)
「ゴゴ!」
メインシステムの言葉を遮り、構うものかと即答する。
(了解した。攻撃システム解放。コマンド名、メテオパレード。個体名ウィンクルムを避けてのコマンド実行に、全ての演算リソースを優先配分)
「ゴゴ…」
「ゴレムス?何をする気!?駄目、駄目だよ!」
ウィンクルムはそもそも、ゴレムスが分離再構築機構に問題を抱えていることなど、知る由もない。
しかし、ゴレムスの瞳と言葉、そこに込められた、これまでの感謝と別れの感情を、痛いほどに感じ取った。
「ゴ、ゴゴ!!!」
「ゴレムス!駄目ーッ!!」
ウィンクルムの必死の制止も虚しく、ゴレムスを構成するブロックがばらけ、空に浮き上がる。
さらにその複数個単位が寄り集まって、空中で再構築された無数の拳が、辺り一帯に降り注ぐのだった。
続く