コアの球体を中心に、空中にてゴレムスの組み上げた巨腕のいくつかは、浜辺の砂の城が如く、形を保てず空中にて銀砂と散る。
メインシステムの想定以上に、分離再構築システムのエラーは甚大だった。
それでもなお、現状を打開するには充分な量の拳が顕現し、2体のトロル目掛けて降り注ぐ。
そのうちの一発がウィンクルムを捕えるトロルの顔面に命中し、宙に投げ捨てられたウィンクルムを別のゴレムスの腕がそっと受け止める。
しかし、そっといたわるようにウィンクルムを優しく地に降ろした腕は、そのままふわりと形を失い銀砂の山となった。
「…!!」
その様子に、ウィンクルムは嫌な予感が的中してしまう恐怖で青褪める。
他の巨腕も同様、役目は果たしたとばかりに、トロルを打ちのめした端から銀砂と散っていき、あたりはゴレムスだったもので埋め尽くされていく。
やがていつしかトロルは2体とも無様に地に倒れ伏し、尚も続くゴレムスの猛攻に、二人組も腰を抜かしながら逃走した。
ウィンクルムの安全が確保され、満足したかのように、すっかり出会った時と同じただの丸い石の姿となったゴレムスは、カクリと力を失い落下する。
「ゴレムス!ゴレムス…!!ねぇ!」
不安定な銀砂の山を駆け上がり、既の所でコアをキャッチしたウィンクルムが必死に呼びかけるものの、コアは微かに明滅するのみで、再びゴーレムの像を結ぶことはないのであった。
トロルと悪漢達をしとどに打ちのめしたゴレムスの拳は、轟音とともに激しく地を揺さぶり、その余波はジュレットで出店の撤去作業に入っていたミサークたちの元へも届いていた。
「何だぁ一体?」
「ミサークくん!あれ!」
ごましおの指差す方向。
ウィンクルムの働く波止場の集積場から立ち昇る砂煙を目にし、コック帽とエプロンを投げ捨て、ミサークとごましおは一目散に走り出す。
「ウィンちゃん…これは一体…」
辿り着いた先、銀砂の海の中央で、うずくまっているウィンクルム。
その微かに震える背中に声をかけられないミサークの横で、地に突き刺さっていた石造りの巨腕が砂となり崩れる。
「まさか、これ…」
事態を悟ったミサークのつぶやきにようやく存在に気付き、振り向いたウィンクルムの顔は涙と鼻水にまみれていた。
「ミサーク…ゴレムスが…ゴレムスがぁ…うわぁ~ん!!」
ウィンクルムはこらえきれず、亀裂の入ったゴレムスのコアを抱き締めたまま、泣き崩れるのだった。
続く