ごましおもミサークも、いつも気丈で、しっかり者のウィンクルムのそんな姿を初めて見る。
何もできず、せめてそっと寄り添いウィンクルムの肩を抱くごましお。
惨状に呆然とする心と裏腹に、ミサークの頭は冷静に状況を分析し始める。
ウィンクルムの手には丸い石。
あれは恐らく話に聞いた、ゴレムスのコアだろう。
元々不思議に思っていた。
ウィンクルムの話が事実ならば、ゴレムスはミサークが昔、文献にて目にした携帯用ゴーレムのはず、であれば、自在に体を分解、放棄し、コアのみの状態でウィンクルムと共に自由に何処へでもついて行けた筈なのだ。
しかしこれまでにそれをしなかった。
いや、できなかったということか…。
あたりに目を向ければ、倒れ伏す2体のトロルが目に映る。
こうなることが分かっていて、それでもなお、ゴレムスは、ウィンクルムの為に命を懸けたのだ。
そこまで思い至って、ミサークはなお、言葉に詰まった。
俺が何とかしてやる。
その一言が、形にならない。
このクエストは流石に、どう考えても手に余る。
王立調査団の落伍者にして、一介の考古学マニアに出来ることなど、たかが知れている。
そして、ゴレムスという、一人の友達の命に関わる話なのだ。
一度言葉を吐いてしまったら、頑張りましたができませんでしたで済ませられない。
何が、チームの頼れる兄貴分だ。
悔しさに握りしめた拳がぎゅっと音を立てる。
そして、ウィンクルムもごましおも、何も言わない。
彼女達は知っている。
今もし、ミサークに縋る言葉を吐いてしまったら、彼は死ぬ気で何とかしようとするだろう。
ごましおのレタシックスーツを作った時のように、己の体も省みず、人相が変わるほどの無茶をするに決まっている。
自称、チームの頼れる兄貴分、ミサークはそういう漢なのだ。
ウィンクルムの微かな嗚咽のみが響く、重苦しい沈黙が続いたのち、ミサークは深く深呼吸し、髪をかきあげ、心を決めた。
「…ごま、気絶してるトロルがいつ目覚めるかわからん。ウィンちゃんとゴレムスを頼んだぞ」
ごましおはまだ幼いが、いざとなればミサーク謹製のレタシックスーツもある。
この場を任せるに足るプクリポだ。
「えっ、ミサークくん何処行くの!?」
ミサーク自身、ゴレムスの為に何が出来るのか、アテも確証も何もない。
ただ必死に悪足掻きをするだけだ。
だからせめて、過度の期待は持たせぬよう、これ以上は何も言わずにチームアジトにひた走り、唯一つの荷物として明日のパンツを引っ掴むと、ヴェリナード行きの馬車に飛び乗ったのだった。
続く