「…ところで、気付いていますか?」
意味深な発言、しかしそれきり黙り込み、グレートフィズルガーZに燃料補給を始めたフィズルに、小声で話しかけるフツキ。
レンドアに降り立って早々の頃から、フツキは何者かの視線を感じていた。
アカックブレイブが去ると同時に少し減り、今は3人、いや、4人だろうか。
その言葉の先を遮るようにフィズルは口を開く。
「先程は嫌がらせと言ったがね、私も大人だ、ちゃんとこの茶番には意味はあったのだよ」
「…ホントにヴェリナードの一件の意趣返しではなく?」
「そうだとも。さて、そろそろ良いかな?」
フィズルは未だ待機状態にあるグレートフィズルガーZの側面のハッチを開け、ポチポチとボタンを操作する。
ジーッと音を立てながら、数枚の白黒写真がボタン横のスリットから出力された。
「ふむ…こいつとこいつは見覚えがある。こいつは…知らんな。こいつも…こいつもだ。やれやれ、意外と大所帯のようだな」
「…?」
フツキも写真を覗き込むが、それが何を意味するものか掴みかねる。
写真はどれも、レンドアの街並みを写したもの。
写り込んだ街行く人々の様子を見るに、先頃のマージン逃亡による混乱のさなかに撮られたものだろう。
「マージンの爆弾の起爆方法を知り、かつ、サンドストームで用いられた暗号システムを使いこなし、遠目とはいえ、アズランにて相棒の君がマージン本人だと見間違えたというほどの変装の名手。その時点で、ある程度、犯人の目星はついていたのだ」
「あ、いえ、相棒ではないです」
こんな時ですらフツキはサラッと否定をねじ込むが、フィズルは気にかけず先を進めた。
「君も知っての通り、傭兵団サンドストームは遥か昔に壊滅した。だが、サンドストームもそれなりに大所帯。私やマージンのように、免れた者たちは当然居る」
「まさかこいつらは…」
あらためて写真に目を落とすフツキ。
「おっと、周りを探るなよ、フツキくん。視線で気取られる。まだ我々は見られているからね」
フィズルが、普段は額に跳ね上げているゴーグルを装着すると、グレートフィズルガーZから送信されたレンドアのマップデータと、そこに、マークした人物の位置情報が赤い光点として表示される。
レンドアというある種の封鎖空間を利用し、敵の監視の目を炙り出したのだ。
「うむ…今残るは、4人か。フツキくんはともかく、私の戦闘力はスライム以下だ。グレートフィズルガーZも手持ちの予備燃料的にあまり無茶はできん…。敵にはもう少し減ってもらいたいな」
アカックブレイブが大地の箱舟を移動に使えば、あるいはもう少し敵の手がそちらに向いたかもしれないが、それは言っても仕方あるまい。
「状況を整理するうえでも、君には私の知りうる限り、全てを教えよう。ついてきたまえ」
グレートフィズルガーZを何とか小脇に抱えると歩き出す。
「…フィズルさん、ご存じの通り、いくらアカックブレイブが向かってくれたとはいえ、ティードさんとハクト君の事が気になります。あまり寄り道は…」
「そのことだがね。犯人が予想通りであれば、ティードの事は心配ない」
「えっ?それは一体…」
「まあ、それもおいおい、だ。すまんが、久々に、ちゃんとした店のコーヒーが飲みたくてね」
レンドアのこじゃれた喫茶室のドアベルがカランカランと音をたてる。
フィズルの抱えたグレートフィズルガーZを見るなり、危険物の持ち込みはご遠慮くださいと駆け寄る店員との一悶着の末、やっとのことで席へと案内される二人であった。