「…なるほど。フィズルガーZの過剰な戦闘力は、その為だったんだな」
「そうだ」
マージンは一つ合点がいった。
ヴェリナードでマージンが破壊した初代フィズルガーZ。
ウルベア魔神兵をベースにしたとはいえ、なぜあれほどまでの武装を施したのか。
過去へ飛び、その先で竜と相対することまで想定していたのだ。
「フッキー、聞くまでもないとは思うけど、一応。手を引くか?もともと、俺の持ち込み企画みたいなもんだし」
相手が相手だ。
正直、答えはわかっているが、聞いておくべきだろう。
「お前、ここまで付き合っといて、そんなこと言う奴だと思うか?それ最低の発想だからな?」
フツキはきつい目線でマージンを睨み返す。
「なんだろうな。命の保証のないクエストだというのに、ドラゴンクエストと聞くだけで、不思議な高揚感すらある」
フツキの言葉は、今この場の全員に共通するものである。
「海底離宮以来のドラゴンクエスト…。それも、知らぬ相手じゃない、他ならぬ相棒の依頼だ。受けないわけがないだろう?」
「よし、これで全員腹は括ったわけだ。恐らくは敵はマージンのマイタウンで待ち受けている。作戦をねるぞ」
未だ夜明けもグレンもほど遠い。
馬車の中には異様な熱気が満ちるのであった。
一夜明けて。
マージンのマイタウンに隣接する住宅の屋上に身を伏せ、アカックブレイブは様子をうかがう。
マイタウンのそこかしこに、如何にも規律正しい紺色の制服を身にまとった警察官の姿が見受けられる。
今やマージンはアストルティア全土にわたる指名手配犯。
そのマージンが所持するマイタウンともなれば警察機構の手が回っていてもおかしくはないが、どうにも胡散臭い。
「殺気くらい、隠せぬものかな」
マイタウンを徘徊する誰も彼も、指名手配犯マージンを待ち受けるというにしては、剥き出しの殺意がすぎる。
「…まったくです」
隣で頷くは、マージンのマイタウン専属コンシェルジュのフライナ。
アカックブレイブことセ~クスィ~はマージンのマイタウンに数日間滞在したことがあり、フライナともその際に少なからず接点があった。
ティードから任された所用を済ませて戻った所でマイタウンの異常に気付き、しかし腕に覚えはあるとはいえ多勢に無勢、どうしたものかと悩んでいたというフライナ。
偶然にもグレンにてアカックブレイブと合流出来たのは、お互いにとって大変僥倖だった。
「むぅ…しかしどうしたものか…」
敵の数は多いとはいえ、戦力的には充分であるにも関わらず、二の足を踏むのはもう一つ多大な理由があった。
アカックブレイブの目線の先、わずかにのぞくカーテンの隙間から、拘束されたハクトの姿が見える。
時折、ハクトが誰かを気遣うように顔を向ける様子から、誰かもう一人、恐らくはティードだろう、同じくゲストハウス2階の客間に軟禁されていると思われた。
故に夜間であれば監視の目も少なくなるかと思い様子を見たが、残念ながら今もってなお警戒態勢は緩む気配がない。
「おのれ小悪党め」
友、ティードの窮地に現状為す術がないことを歯がゆく思うアカックブレイブであったが、ある確信があった。
あの男は諦めが悪いのだ。
それはもう、意地汚いと言い変えられるほどに。
だから待つ。
きっと破茶滅茶で無茶苦茶な埒をあける、その男を。
その時、突如として響き渡る轟音と立ち昇る爆炎。
「来たな!フライナ殿、行くぞ!!」
「心得ました!」
早くも混乱渦巻くマージンタウンへと、ヒーローは空を駆けるのであった。
続く