工房の裏手には、先頃マージンがド派手な火柱を上げた庭園の下を通ってゲストハウスの裏まで続くトンネルが掘られている。
魔法建築工房OZの完璧な強度設計の甲斐あって、あれほどの発破の後だというのにトンネルは健在であった。
その中を、スケッチブックを手に入れた一行がひた走る。
「マージン様、ゲストハウスでは賊が待ち構えていることでしょう、スケッチブックはよろしければ私がお預かりを」
「ああ、そうだな。フライナさんになら、安心して任せられるよ」
「では…」
「フライナさんになら、な」
振り返りざまにマージンはナイフを突き付けた。
背後はグレートフィズルガーZをいつでも打ち出せるようスイッチを構えたフィズルが塞ぐ。
薄暗いトンネルの中で挟み撃ちの様相となったフライナが狼狽える。
「なにを…」
「何年前だか忘れたが…前にも言ったろ?ディティールが甘いんだよ、お前の変装は」
「オッサンの言うとおりだ。口調も含めほぼ完璧だったがな。致命的だったのは…」
「「脚がおっさんだった」」
二人は鼻高々にくだらない解答を告げるのだった。
「そんな馬鹿な理由で…」
偽フライナはマージンとフィズルの思いもよらない指摘に頭を抱え、返す手で顔面を掻き上げると、均整の取れたフライナの顔が消え失せ、昔馴染みの顔が現れた。
「ヘッドが出張るとは、人材不足なのか?」
「コイツの場合、誰も信用してないだけだろ」
「ふふ…好き勝手言ってくれる!」
正体を現したダムドはこっそりと抜いていたスローイングダガーを撃ち放つ。
「おっと危ねぇ。まぁゆっくり聞きたいこともあったが、さよならだ」
マージンは飛来するナイフを飛んでかわし、ギンガムマフラーを引き上げて鼻までを覆うと、トンネルから転がり抜けるついでに懐のギガボンバーを転がした。「ちょっ…お前…バッカ野郎!!」
それを見て罵声をあげたのはフィズル。
慌ててグレートフィズルガーZに跨り来た道を全力で引き返す。
爆弾工作員の一手、当然ながらただ咄嗟の破れかぶれではない。
的確に柱を穿つ爆発がトンネルを崩落させる。
「…ふぅ。ちょっと火力が強すぎたか?最近、やたらめったら依頼報酬に火薬が届くもんだから使ってみたんだが。うん、市販の火薬も悪くないな」
爆風に飛んだ帽子を拾い上げ被り直した所へフィズルが飛来する。
「お前なぁ、先言っとけっての」
「いやさほら、何事も臨機応変にね。…まぁ、俺の家族に手出した時点で、ただで済ませる気は無かったしな」
一瞬、氷のような冷淡な表情を見せるマージン。
フィズルガーZを破壊されたときを思い出し、フィズルの背筋がゾクリとする。
「さて、思いもよらず型が付いた、雑魚が集まってくる前に…」
フツキとアカックブレイブが派手に立ち回ってくれてはいるが、今の轟音を聞き付ければ誰かやってきてもおかしくはない。
未だ戦地、マージンもフィズルも、気を抜いたつもりは無かった。
しかしそんな二人のほんの僅かな虚を突き、金色の戦斧が高高度から振り降ろされる。
ゲストハウスの屋上から飛び降りての一閃。
単純な着地のインパクトもさることながら、その衝撃を余すことなく爆発エネルギーに変換する特殊な機工がマージンとフィズルに牙を剥く。
「馬鹿なっ…!?」
「おおおおっ…!?」
吹き飛ぶ二人の視界に映る、金色のショートヘアのシルエット。
何よりも、その武器を扱いこなせる戦士に心当たりなど数人しかいない。
「何でだっ!…ティード!!!」
爆発の衝撃に手放してしまったスケッチブックを拾い上げる無表情な女戦士に向け、激しい炎熱に煽られ地に転がったマージンの悲痛な叫びがマイタウンに木霊するのだった。
続く