「落ち着けって!ティードさん、そんなに怒ってたのかよ!?」
ティードは問いかけには答えずスケッチブックを小脇に抱えると、地に深く突き立ったエクスプロージョンアックスをゆっくりと引き抜き、再度振るえるよう肩へ担ぎ上げる。
それはかつて海底離宮にて、敵の幹部の一人ヤーゲルが振るった、インパクトとともにカートリッジ式の火薬の爆発を引き起こす戦斧。
オリジナルがここにあるわけもなく、ティードが握っているのは、その絡繰に惚れ込んだマージンが事後、JBやトーラにうっとおしがられるほどに付き纏って再現したレプリカである。
レプリカとはいえ爆弾工作員謹製の品、本家よりも小型なれど威力も侮れず、仲間モンスターのさまよう耐爆スーツのマクレーンを鎧代わりにまとわない限りは、爆発があまりにも近くで起こり危なくて扱えないと半ば封印された兵装であった。
それを生身で振るった当のティードへのダメージは凄まじく、タンクトップから覗く皮膚のあちこちに岩くれが散ったことによる裂傷や火傷が見て取れる。
さらには柄にまで伝わる尋常ではない熱量がその肩と掌を焼くが、ティードはやはり表情一つ変えることはない。
ただただ冷淡でいて虚ろな表情を浮かべ、マージンを見下している。
「…これは一体どういう状況だ?」
ハクトとフライナの手当をフツキに任せ、爆音をたよりに駆け付けたアカックブレイブもまた、あまりにも壮絶な光景に息を呑む。
「ティードさん!爆弾に作り変えたことなら素直に謝る!けどアズランに仕掛けたのは断じて俺じゃないし!あの木彫りのごうけつぐまがそんなにお気に入りだったなら、今度買ってくるから!とりあえずその斧は駄目だ!!」
「…ん?ごうけつぐまを…爆弾に…?」
アズラン住宅村爆破事件、その使用された爆弾の仔細を知らなかったアカックブレイブの中で、何かが繋がる。
猛然と赤いオーラが立ち昇った。
「何だか知らんが鬼が増えたな…。おい馬鹿タレ!目を見ろ目を!!ティードは操られてんだよ!!!」
マージンと同じく吹き飛び、強かに打ち付けた後頭部をさすりながら立ち上がったフィズルは、何故だかマージンに対して軽く殺気立つ助っ人を横目に、冷静に状況をマージンに諭す。
「何じゃそりゃ…!?ばくだんいわをこっそり飼ってたのがバレた時と同じ顔してるからてっきり………て!あはは…セ~クスィ~…さん?…いやだなぁ…あはは…もしかして、もしかしてなんだけど…あの…聞いてた?」
マージンはフィズルの方を向き直り、ついでにもう一人の怒れる女史と目が合ってしまった。
あふれる滝のような冷や汗を拭うこともなく恐る恐る問うマージンに、無言でゆっくり頷くアカックブレイブ。
その目は今のティードに負けず劣らず、とてもとても冷たかった。
「最悪だッ!!絶対に許さねぇからなダムド!!!」
「………そこは完全に八つ当りじゃねぇか?」
呆れるフィズルをよそに、ハンマーを構えたアカックブレイブがマージン目掛けて突貫する。
「おわぁちょっとタンマ!」
尻もちの姿勢で後退るマージン、アカックブレイブはしかしその横を通り抜け、道すがらハンマーから引き抜いて二振りのランスに転じた柄をクロスさせ、マージンに振り降ろされようとしていたティードの斧の柄を頭上で受け止めた。
殺しきれない威力に踏みしめた石畳がひび割れる。
「マージン!木彫りのごうけつぐまの件、今は問うまい!!私がティードを抑える!その間に何とかしろ!!これ以上この危険な武器を使わせるな!」
つまりは後で問い詰めるというありがたい予告だけ残し、アカックブレイブはさらに2度3度、なかば破れかぶれに振るわれるティードの斬撃も同じように刃でなくその柄を受け止める。
あたりの惨状とティードの傷の具合から、アカックブレイブはティードの振るう武器の特性を推察したのだ。
「早くしろ!長くは凌げん!!狙いは雑だが、魔装を展開した時と同じ圧だ。何よりティードの身体がもたんぞ!」
魔装に包まれたアカックブレイブの腕が軽く痺れている。
ティードは生身にも関わらず、以前臨時メンバーとして魔装を展開した際と同等の膂力で斧を振るっているのだ。
ティードの身体もとうに限界を迎え、爆発の熱とは異なる赤みを帯び始めていた。
続く