やがて異変の知らせは左舷からもたらされた。
『何だコイツ!?強い…!』
「フツキ君…!?どうした?」
フツキの緊迫した様子の声に双眼鏡を向け、フィズルはこめかみに青筋を浮かび上がらせる。
「…どうりで亡骸が…見つからなかったわけだ…。ド畜生が!!」
作りかけのアンプルを放り投げ、グレートフィズルガーZに跨った。
「待て兄貴!俺が行く!頭に血が登ってるあんたじゃ無理だ!代わりにここを頼む!!」
しかし、同じものを見たマージンが、あわや鉄拳が飛び立つ所でフィズルを制す。
躊躇いは一瞬。
戦場に無駄な時間は一秒とないことはフィズルも痛いほど分かっている。
「…仕方ない。任せるぞ」
そしてこの局面、彼我の戦闘能力差も考えて、正しいのはマージンであった。
「ああ!」
マージンは力強く応え、走り出す。
一方、既に何度、打ち合ったことだろう。
フツキは両手に構えたピックで、再度、ゾンビの一撃を打ち払う。
敵の振るった先端の欠けたククリナイフの攻撃は、正確無比に急所を狙う強烈な一撃で、受けたのではなく払ったにも関わらずピック越しに伝わる衝撃だけで手が痺れを訴えていた。
これ以上、立て続けには捌ききれない。
感覚の回復の為、すかさず距離を取ろうとするが、さして体勢を崩した様子もないゾンビは左手にソードブレイカーを抜き放ち、逆手に構えたそれでフツキの首目掛けて真一文字に振り抜く。
「…しまった!」
かろうじてピックでその一撃を受けた所で、フツキは失策に気が付く。
ソードブレイカーの溝に深々と嵌まり込んだピック。ゾンビが引き抜く左腕につられて、痺れで握力の弱まった掌からピックが持っていかれる。
そこへ振り下ろされるエンシェントククリ。
残る左手のピック一本では到底受け止められようもない。
「緊急射出!アンカーっ!!」
本来であればキーコードに基づき極小規模のイオ系呪文の爆発力で押し出されるアンカーを、手順を無視して撃ち放った。
当然、本来の手順を踏まない一撃、そこには緻密な座標指示も何もない。
咄嗟の判断と、秒にも満たない準備時間にも関わらず、フツキの身のこなしと、敵の攻撃が的確に一撃必殺を狙う動きであることも幸いして、激しい金属同士の衝突音とともにアンカーはゾンビの振り下ろすエンシェントククリと克ち合い、今度こそゾンビは大きくよろめいた。
「両脚接続!イオグランデ!!」
手の痺れは未だ取れない。
となれば。
脚部スーツに凄まじい熱量がこもる。
本来であれば高速移動のために込める呪文でもって、伽藍洞になったゾンビの胴体にタックルを仕掛けた。
ゾンビが防御のために持ち替えてかざした肉厚の刀身を持つグラディウスを、容易く圧し折る程の衝撃。
舞い上がるが如く吹き飛んだゾンビの体を、さらに突如として起こる爆風が高台へ運んでいく。
『よく凌いだフッキー!コイツは俺に任せて、引き続き砲台の防衛を頼む!!』
「…まったく、少しは休ませろ」
人使いの荒いマージンに悪態をつきながらも、言われる前、爆風を見た瞬間からフツキは既に動いていた。
謎のゾンビと戦っている間の隙きをつき、既にフツキの護るべき砲台群の周りにモンスターがひしめきつつある。
防衛マシンが何とかエネルギーを犠牲にした放電攻撃で凌ごうとしているが、まったくの焼け石に水である。
急がねばならない。
「出し惜しみ無しだ。両腕接続!メラッ…ガイアーーーッッッ!!!」
立て続けに極大呪文を展開しつつ、戦場に舞い戻るフツキであった。
続く