切り札のゾンビが討ちはらわれた事を、模造品の竜も感覚で掴み取る。
そして、何によりその敗北がもたらされたのかもまた、敏感に感じ取っていた。
「…そうか。確かあいつは、二刀流だったな」
今の今まで忘れていた。
本気を出したキャトルは、その両手にエンシェントククリを握っていたことに。
「そこまで見越していたと…。やはり、我のモノにしておくべきだった」
忌々しいことだがキャトルの周到さ、認めざるを得ない。
そしてそれを打ち砕くためには、多少のダメージもやむなし。
模造品の竜は大きくその翼を広げた。
骨と羽根を軋ませながら、あっという間にマージンの頭上まで飛来する模造品の竜。
「僅かな可能性の芽も摘み取らねばな」
ブォンと大きく風をきり、マージン目掛けて大蛇のような尾が振り降ろされる。
「くっ、…おおおおおおっ!!!」
マージンは盾の代わりに突き出したエンシェントククリで尾を受け止めた。
間違いなく、血の効果は出ている。
拮抗するにはしかし、重量の差がありすぎ、竜に軍配があがってしまう。
「ぐ………がっは…っ」
吹き飛ばされ、ゲストハウスの塀に衝突したマージンの掌中で、力を使い果たしたかのようにエンシェントククリが砕け散る。
「はは…ぁ…これで為す術もなかろう…」
竜は竜とて、キャトルのゾンビを生み出した際に切り離した脚は欠損したまま、さらにはマージンとのせめぎ合いの果てに体のそこかしこから骨が露出していた。
『無事か!?マージン!』
『返事をしろ!』
『マージンが離れた今がチャンスだ!とにかく撃て!撃ちまくれ!!』
通信機をつんざく皆の声とともに、未だマイタウン中央に座す模造品の竜目掛けて砲弾が殺到する。
「煩わしいな」
蚊でも払うかのような囁きとともに、竜の口元に黒炎が宿る。
『皆!逃げろ!!』
いち早く気付いたマージンが、喉が割れんばかりに叫んだが、間に合ったかどうか。
ぐるりと旋回すると同時に吐き出された黒炎の放射が、的確にマイタウン全土の砲台群を薙ぎ払う。
同時に、破邪の結界の一柱、3番地の光が限界をむかえ消え失せ、連鎖的にマホカトールの効果自体が弾け飛んだ。
模造品の竜は自らがもたらした破壊の傷痕を見、満足そうに笑う。
「いちいちとどめを刺すのも面倒だ。損傷も癒やさねばならん。ここはひとつ、我が権能を試すとしよう」マージンのマイタウンのみならず、グレン住宅村そのものを覆うほどの黒き光を伴う長大な魔法陣が遥か天空に刻まれる。
「極大強制昏倒邪法…夢幻偽獄(ログ・ペサディージャ)」
魔法陣が弾けると同時、マージンのみならず、その場の全員が、抗う術もなく膝から崩れ落ち、眠りの淵へと引き摺り落とされるのであった。
続く