「…キさん」
声が聞こえる。
「…ツキさん」
この声は、そうだ、確か…
「フツキさん。大丈夫ですか?思案に耽っていらっしゃったようですが、何か懸念でも?」
どうにも頭がスッキリしないのは、水圧のせいだろうか?
何かがおかしい気がする。
だが、それが何なのかはっきりしない。
そしてそんな曖昧な話で軍議を妨げるわけにはいくまい。
「大丈夫だ。進めてくれ」
フツキに促され、潜水艦内、裸ランプの橙の灯りのもと、今回のクエストの発起人の一人であるドワーフのギブは、テーブルの上に一枚の地図を広げた。
「未完成だが…これが例の海底離宮か?」
「はい、以前お話したトーラが集めた情報をもとに作成して貰ったんです」
潜入クエストの難しさ、フツキはそれを嫌というほど身を以て知っている。
それも、攻略に百人もの精鋭冒険者を集めるほどの要害の地である。
トーラという冒険者のスキル、一目置かねばなるまい。
「はぁ~、短時間でここまで把握するとは、そのトーラさんて方、噂以上の腕前ですねぇ」
まるでフツキの心の内を代弁するように、相棒のハクトが地図を眺め感嘆の声をあげる。
…ん?相棒の…ハクト…君…?
「フツキさんとハクトさんにはこれから侵入するポイント付近の見張りの無力化をお願いしたいのですが」説明しながら、ギブは地図上にペンで印をうっていく。
「事前情報から推察される戦力規模を考慮しても特に初期段階からの戦闘は避けるべきと判断しました」
ギブの説明を補うように言葉を添えるのはヴェリナード軍より随伴したウェディの将官、アスカ=バンデ・ヒルフェ。
「しかし…御無礼は承知で一つ、軍人の立場として、まだ幼いハクトさんにご参加頂くのは少々気が引けますが…」
アスカの指摘にハッとする。
そうだ。
あの時この場に居たのは…
「ご心配なく!仲間モンスターのばくだんいわも居ますし!」
フツキの思考を遮るように響いたハクトの声につられ、彼の足元へ目を向けると、帽子にゴーグル、さらには存在しない首にどう固定しているのか、ギンガムマフラーでおめかししたばくだんいわが主張するように転げ回っている。
え…?
やっぱり何かおかしくないか?
「それに、ぼくの実力はフツキさんもよくご存知ですよ。ね!?」
「んっ!?あ、ああ…あれは確か…」
ハクト君と知り合ったのは…
あれはそう、ボロヌス溶岩流にて、対魔神兵用に敷設された古代の地雷撤去に赴いたときのことだ。
安全の為に二人一組で行動することになり、その相手こそが…ハクト君、だったか…?
本当に…?
曖昧な記憶とともに、足元から今にも身体が燃え上がってしまいそうな熱気が噴き上げてくるのだった。